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巡洋艦矢矧 託した伝言 [軽巡洋艦矢矧]

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 カッターが吹き飛ばされたのを見た
井上氏は、先程、別れを言いにきた
渡辺見張長のことを思いました。

 井上氏は、渡辺見張長に妻子の
住所を告げ、伝言を頼んでいました。
しかし、本当に生存できるのが誰かは、
わかりませんでした。

 井上氏は、戦死したら、妻子の枕頭にだけ
立ち寄ってから靖国にまいろうと思って
いたので、渡辺見張長の伝言が届くことは
あまり期待はしていませんでした。

 しかし、目の前でカッターが粉砕され、
そこに渡辺見張長が乗っていたとしたらと
考えました。井上氏は、呆然となり、
念仏を唱えることさえ忘れていました。


 敵機の攻撃は、矢矧が浮いている限り、
緩めむことはありませんでした。爆弾や
魚雷を積んだままでは、空母に着艦
できないため、投下しておく必要が
ありました。

 漂泊している艦であっても、当たれば
命中弾であり、手加減するいわれは
ありませんでした。

 この時点で、矢矧は、10個以上の
爆弾と、5本以上の魚雷を受けて
いました。沈没は時間の問題
でしたが、それでも、最後まで
頑張っており、火薬の誘爆も
ありませんでした。

 破孔からの浸水による転覆もありません
でした。乗員一同よく頑張っていると
言えました。

 しかし、矢矧の終焉は近づいていました。
その時、右舷艦橋下に魚雷が命中しました。
爆発した黄色のガスが発生し、呼吸すれば、
窒息させる塩素ガスが、発生します。

 井上氏は、ガスマスクを装着し、風上に
避けて、ガスが消えるのを待ちました。
ガスが消えた後、改めて部屋を見て、
重たい12cm双眼鏡が落下しているのを
見つけ、驚きました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平


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