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巡洋艦矢矧 第一次攻撃隊 [軽巡洋艦矢矧]

 転舵回避に急を要する事態になり、
井上氏は、伝令に伝えていては
間に合わないと考え、艦橋への
伝声管にしがみついて、ありったけの
声をぶち込みました。こうでもしないと、
砲火の音響で、聞き取れなくなりました。

 来襲する敵機を見て、矢矧は急転舵
しました。急降下する敵機を、舷側に
持ってくるように懸命に回頭しました。

 航空機からの爆弾は、交換の首尾線上から
進入して投下するのが、最も命中率が
高くなるからでした。

 敵機の空襲に、宮本武蔵研究家の
原艦長も、水上艦艇に対する魚雷攻撃の
ようには、いかないようでした。いささか、
手を焼いた恰好で、矢矧は突っ走って
いきました。

 大和の周囲にも、多数の水柱が
上がっていました。白銀水柱の並木道を
航海しているように見えました。

 大和は、悠然と突っ切っており、
舷側から、発砲煙が流れ出ていました。
井上氏は、大和は、海の王者だと
思いました。

 護衛の駆逐艦も、回頭しながら、敵機を
迎え撃っていました。曳痕の赤い奔流が
空へ逆流し、かなたの上空は、次々に
黒い花がひらき続けていました。

 しばらくして、第一攻撃隊は去って
いきましたが、再び、第二次攻撃隊が
押し寄せてきました。第一次攻撃の時の
熾烈な弾幕にこりたのか、今度の
艦上爆撃機は、高い高度から
急降下に移っていきました。

 矢矧は、急降下してくる敵機に対し、
機銃で一斉に火をそそぎました。井上氏は、
戦いだけでなく、四周に眼を走らせ、他の
脅威がないか確認しました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 撃墜 [軽巡洋艦矢矧]

 一発目はそれましたが、二機、三機と
戦闘機と同じ動作で、爆弾を投じて
いきました。

 爆弾により、井上氏がいる見張所の
高さに3倍はありそうな水柱が、
舷側に高々と上がりました。

 高角砲の機銃群は、来襲する敵機へ
砲火を振り向けました。砲員、機銃員たちは、
鉄兜の下の白鉢巻に汗をにじませて、
血走った眼で装填し、発射していました。

 きな臭い硝煙が、見張り指揮所に吹き
つけてきました。主砲の強烈な音響と、
多数の機銃の間断ない叫び声とが、
見張所に殺到し、号令も見張員の報告も、
容赦なくおしつぶしてしまいました。

 その時、急降下してきた艦上爆撃機の
胴体から真っ黒な煙を噴き出しました。
短い歓声が上がるなか、敵機は右に傾き、
右翼を界面に向けて横泳ぎの姿勢で、
頭上を通過していきました。

 さらに、ふわりと回転して、背面になり、
次の瞬間、がくりと頭を下げて、海面に突っ
込んでいきました。幅広い水しぶきが海上に
上がりました。矢矧は、水しぶきを後ろに
引き離して、突っ走っていきました。

 水しぶきも薄れていった後は、翼も胴体も、
飛行機が突っ込んだことを示す何ものも
残っていませんでした。溜飲が下がる
思いがしましたが、敵機は息のつく暇も
ないほど、高空から降下してきました。

 状況は、いやがうえにも切迫していました。
艦長と航海長は、艦橋で命令し、操艦して
いました。転舵回避に急を要する事態でした。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 機銃群、火蓋を切る [軽巡洋艦矢矧]

 主砲が火を吐くと、高角砲も遅ればせに
撃ち上げられました。砲撃のショックで、
艦が激しく震動しました。

 大和も、巨砲が空に向かって咆吼して
いました。褐色の発射煙が吐き出され、
その煙がほとんど形を崩さないうちに、
艦の後方へ流れ去りました。

 周囲の駆逐艦も、一斉に射撃を開始
しました。敵編隊の周辺が、炸裂煙の
黒い斑点で埋め尽くされました。

 斑点を突き抜けて、敵機の編隊が、
接近し、ぱっと編隊をひらきました。
距離5kmになり、満を持して矢矧の
機銃群が、火蓋を切りました。

 一本の棒のようになった艦上爆撃機
10数機が、左30度から突進して
きました。先頭のSB2Cが、ひょいと
右翼を持ち上げ、機首を落として
急降下に入りました。

 機首が、二、三度ふれたかと思うと、
矢矧に向かって猛然と突っ込んで
きました。

 井上氏は、「当たれ。落とせ。」と必死に
撃墜を念じました。敵機は、ついに爆弾を
切り離しました。敵機のエンジン音が、
むき出しの見張所にいた井上氏らの
身体をすくませました。

 爆弾は、鋭くうねりを発して、みるみる
その丸い輪廓を大きく膨れ上がらせました。
「当たるか?」と皆一瞬呼吸をつめました。
すると、爆弾は、歪みを生じて、尾部の羽が
現れました。井上氏は、「それる」と判断
しました。

 果たして、爆弾は、左舷後部に落下し、
真っ白い水柱を轟然と奔騰させました。
井上氏は、ホッとしました。しかし、
この状態をあとどのくらい、食らわな
ければならないのかと、思いました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 敵機の突撃 [軽巡洋艦矢矧]

 目の周囲が痛くなった井上氏でしたが、
このおかげで、神は、井上氏に、獲物を
授けてくれました。敵の艦上爆撃機
SB2Cを2機発見しました。

 井上氏は、双眼鏡に目をつけたまま、
喉も裂けよと声を張り上げて報告しました。
敵機は、あとからあとから、無制限に生み
落されました。まだ、砲撃距離に入って
いませんでした。

 艦橋には、「敵機は今まで確認したもの
約70機。機種はF6F、SB2C、TBF。」と
いった報告が慌ただしく飛びかって
いました。

 魚雷は、誘爆を避けるため、発射管が
旋回して、舷側に突き出されました。速力
26ノット。白波を艦尾に盛り上げ、
全艦隊は、まなじりを決して、
驀進しました。

 艦隊は、またたくまに数百機の敵機に
包囲されました。しかし、今更驚くことは
ありませんでした。敵軍の重囲を突破
しなければならないことは、出撃の時から
わかっていました。

 敵機の大群は、藻の間をくぐる池の魚の
ように、雲の間をつっきり、艦隊の上空を
一周しました。敵の編隊は2つにわかれ、
大和と矢矧に向かって、突撃を開始
しました。

 矢矧に向かってくる敵機だけで、ゆうに
百機はいました。これは、空母か、大和、
武蔵クラスの戦艦に対応する待遇でした。

 普段はのんきな井上氏も、これには
面食らいました。この艦隊に、榛名や伊勢、
日向といった戦艦が参加していないのが、
恨めしくなりました。

 井上氏は、改めて、沖縄には行けそうに
ないと感じました。そして、ついに、
「砲撃はじめ」の命令が下り、
主砲が火を吐きました。


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著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 見張りに集中 [軽巡洋艦矢矧]

 井上氏は、池田氏が言うように電探を
いじめるつもりはありませんでしたが、
電探器でつきっきりで督励している
池田氏と同じように、敵の攻撃隊を
早く発見したいと考えていました。

 井上氏は、敵発見の目算時刻5分前に、
双眼鏡にしがみつきました。敵は、
F6Fの方位から来ると推測
しました。

 腹を据えた日本艦隊は、堂々と航進
していました。F6Fは、虎視眈々と
にらんだまま、羽ばたいていました。

 誠に静かに時はすぎていましたが、
向こう側では、敵の攻撃隊が、プロペラ
大旋風を起こし、万雷を天空に爆発させて、
来襲しつつあるはずでした。

 天空には、層積雲がかかっており、
見張りには一番苦手な状態でした。
このような状態のときこそ、電探の
領域だと感じていました。

 そこで、今度は負けないぞといっていた
池田氏の電探器はどうなったのだろうと
考えました。まだ報告はないので、
発見していないようでした。

 現在、艦隊は、之字運動をしているので、
調整に大わらわなのだろうと思いました。
この状態では、電探に花を持たせることは
できそうにありませんでした。

 井上氏は、双眼鏡を移動させ、攻撃隊が
来ると思われる方向を、見張りました。
ちょうどその頃、後部見張りより、
「浮上潜水艦」という報告が
ありました。

 真っ昼間に浮上潜水艦と聞いて、味方の
潜水艦かと疑いましたが、間違いなく敵だと
いう返答でした。

 艦隊をなめた行動だと腹が立ちましたが、
見張りを忘れるわけにはいきませんでした。
精神を眼鏡に集中しましたが、あまり目を
くっつけすぎていたため、目の周囲が
痛くなってきました。


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著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 池田武邦中尉 [軽巡洋艦矢矧]

 改めて空を見ると、F6Fが低い雲の中を
見え隠れしていました。

 背後の電波探信儀は、井上氏ら視覚見張りに
先を越され、いささか焼け気味に電探器を
旋回させていました。しかし、まだ何も
発見できませんでした。

 その電探器室から、池田武邦中尉(以前
紹介した池田氏です)が、顔を見せました。
池田氏は、以前は航海士でしたが、今は、
電探器指揮の第四部隊長をしていました。

 井上氏は、池田氏に、「航海士から、
航海長に格上げ転勤はできませんか。」と
言葉をかけたことがありました。

 池田氏は、「それだと、航海専門になる。
何でも経験しておけば、艦長になった時都合が
いい。」と返答しています。井上氏は、未来の
提督は、艦長になったときのことを考えている
ようだと感じました。

 井上氏は、普段は疑うことを知らない
好人物であり、人のいい池田氏も、今日は
機嫌が悪いのか、ブスッとしていると
感じました。

 井上氏と目があいました。すると、池田氏の
顔が崩れました。「見張員長。あまり電探を
いじめるなよ。」と言ってきました。

 井上氏は、「それはどうも。でも、いじめると
思わないで、先に発見してくださいよ。」と受けて
います。

 池田氏は、「負けるものか。うちの電探員は
優秀だからな。それより、見張りが先手を
うつから電探員が気の毒だ。今度は、そうは
いかんぞ。電探に負けないよう、見張りも
頑張れ。」と言ってきました。

 井上氏はお礼を言って受け流しました。
部下思いの池田氏は、直属の電探員をうまく
激励しているようでした。

 そのくせ、以前の同じ分隊だった見張員も
やはり可愛いらしく、両方を督励する指導は、
艦長級だと感じていました。


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著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 戦闘準備 [軽巡洋艦矢矧]

 井上氏の言葉に、タバコをふかしていた
曹長は、「もうすぐ対空戦闘だな。
そうなりゃ、大和が被害担当艦に
なるかな。

 でも、沖縄に届きさえすれば、
大戦果は確実なんだが。」と
返答してきました。

 この返答は、井上氏が思っていたことと、
ほぼ同じでした。頼もしいというのは、
ごまかしだと言えます。

 仕方なく、「存分に敵さんをやっつけて、
佐世保に入港でもしますかな。」と、
景気づけをしています。

 燃料は片道でしたが、沖縄に届いたら、
敵の燃料船を撃沈して、そっくり頂戴
すれば良いと考えていました。そのため、
井上氏は、至極天下泰平でした。

 曹長の見解と少し違っていたのは、
被害担当艦に対する考え方でした。
敵機が大挙して来襲してきたら、
大和と、矢矧と、駆逐艦だけと
なったら、配給不足と
とらえると考えました。

 そうなると、矢矧は、大物の列に入るし、
駆逐艦も配給を受けることになるはずでした。
数多くの爆弾、魚雷のご馳走攻めに合う
ことになり、ありがたくない展開でした。

 井上氏は、目算で、あと10分で敵機が
見えるだろうと換算した頃に、見張指揮所に
引き返しました。そこには昼食が届けられて
いました。

 レイテ沖海戦のときは、食事抜きで戦闘指揮を
行い、5日ほど便秘に苦しんだ体験をしていました。
今度は、遠慮する必要はなかったので、大きい
おにぎりを3個ほど平らげました。

 食事を終えると、急いで武装しました。艦内帽の
上から、鉄兜をかぶりました。頭がおさえつけられ、
気持は良くありませんでしたが、心丈夫になりました。
防毒マスクを、肩から斜めにかけ、改めて
12cm望遠鏡のレンズを磨きました。


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著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 敵機見ゆ [軽巡洋艦矢矧]

 見張員が発見した敵機は、上空で
頑張っていましたが、艦隊の進路を
横切って、九州の方へ飛び去って
いきました。

 こちらの存在には気づかなかったようで、
偽の航路は、成功したようでした。直ちに、
「敵機見ゆ」の旗が挙げられました。

 敵機は、今は気付いていなくても、
大型の艦隊が発見した以上、見つかるのは
確実でした。

 敵機が旋回し、艦隊に接近すると、
発見したのか、慌てて上昇し、雲の中に
姿を消しました。

 偽の航路をとる必要がなくなったので、
時を移さず、沖縄の東方海面を行動中の
敵機動部隊から、攻撃機が発艦してくる
はずでした。総員配置で来襲に備える
ことになりました。

 海はゆったりとうねり続けました。
時折、雲の間から、薄い陽光が差し
込んできました。井上氏は、のどかな
光景だと感じましたが、これは、
嵐の前の静けさでした。

 艦隊は戦闘隊形をひらき、大和を中心に、
各駆逐艦が、2.5kmの間隔を保って、
両側に占位しました。矢矧は、大和の
前方直衛につきました。

 しばらくすると、グラマンF6F戦闘機
20数機が出現しました。艦隊は、全対空火器を
敵編隊の方向に振り向けました。井上氏らは
緊張しましたが、敵の戦闘機は近づいて
きませんでした。

 航空援護の有無を探りに来たようで、
遠回りに旋回を続けるのみでした。
井上氏はひと息つけると判断し、
旗甲板に降りてみました。

 そこには、同じ見張士の曹長がおり、
タバコをふかしていました。井上氏は、
「大和を見ていると、本当に頼もしく
なりますね。」と話しかけました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 敵の制空圏内 [軽巡洋艦矢矧]

 敵機動部隊が沖縄方面にいるという
報告を受け、予期していたこととはいえ、
行く手で爪をといでいる敵艦に突っ込む
わけには行かず、にせの航路をとることを、
余儀なくされました。艦隊は西に転針しました。

 空は雲に覆われ、薄日すら差し込まず、
井上氏は、心寂しい情景だと感じました。
視界には、全く陸は見えませんでした。

 日露戦争時、バルチック艦隊がとっていた
航路を、今は日本艦隊が逆行していました。
日本海目指して、1万海里の航路を来攻した
バルチック艦隊は、日本艦隊に撃沈される
ことになりました。

 水上特攻隊も、艦隊戦ならば恐ろしくはなく、
むしろ望むところでしたが、空からの攻撃力を
持つ機動部隊は苦手でした。

 午前10時、上空警戒していた零戦は、
上空を去っていきました。この後は、交代機は
もうきませんでした。鎧も兜もなしに、敵の
制空圏内を水上艦隊だけで進撃していました。

 矢矧は、このような出撃は初めてではなく、
レイテ沖海戦も同様でした。しかし、レイテ沖
海戦の時は、味方の基地が、点々とある
フィリピン諸島の間を、縫っていくという
心強さがありました。

 今は、レイテ沖海戦のときの3分の1以下の
戦力で、敵の機動部隊は分散することなく、
攻撃を一身に受ける立場に置かれていました。

 井上氏は、覚悟を新たに、見張りを
行いました。すると、上部見張りから、
「大型水上偵察機1機、右10度、
2万m右に進む。」という甲高い声が
しました。

 よほど慌てていたのか、飛行機発見時に、
一番大事な高度が、報告から抜けていました。


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著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 沖縄を目指す [軽巡洋艦矢矧]

 1945年4月7日が、ほんのりと明けて
きました。右手に、うず高く盛り上がった
山容が暁闇の中に現れてきました。

 海図を見るまでもなく、大隅半島でした。
霧島の峰が、明けきらぬ曇天のもとに、
一幅の墨絵のように、はるかに浮かび
上がりました。目指す沖縄は、はるか
南方でした。

 沖縄到着は、翌日の早朝8時の見込み
でした。従って、今日一日、約12時間
頑張り通せば、嘉手納の上陸地点に、
巨砲を撃ち込むことが、できそうでした。

 夜も明け放たれた頃、大隅半島の
南端、佐多岬を通過して九州の南西
海面に進出しました。

 種子島が次第に左後方に遠のいて
いきました。薩摩半島の開聞岳が、
北東の雲の中にその美しい姿態を
没し去っていきました。

 空は、層積雲に覆いつくされており、
海面には、淡い 気が漂っていました。
その靄の中あら、箱のような形をした船が
三隻、忽然と現れました。南方から、
反航してきました。それは、戦時急増の
小型輸送船でした。

 信号で問い合わせると、奄美大島への
輸送におもむいた帰途で、6隻で派遣
されたが、3隻は分離して、目下
いずれかを退避中の模様という
ことでした。

 井上氏は、奄美大島はすぐそこであり、
それほどまで敵は進出してきたのかと
思うと、腹が立つ前に呆れたとして
います。沖縄に着くことさえ、大変な
ようで、油断ができないと感じました。

 まもなく、鹿屋基地から出てきた零戦
10数機が上空直衛に飛来しました。
その時、「敵機動部隊。沖縄東方面に
あり。」という報告があり、乗員は粛然と
しました。


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著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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