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巡洋艦矢矧 機銃群、火蓋を切る [軽巡洋艦矢矧]

 主砲が火を吐くと、高角砲も遅ればせに
撃ち上げられました。砲撃のショックで、
艦が激しく震動しました。

 大和も、巨砲が空に向かって咆吼して
いました。褐色の発射煙が吐き出され、
その煙がほとんど形を崩さないうちに、
艦の後方へ流れ去りました。

 周囲の駆逐艦も、一斉に射撃を開始
しました。敵編隊の周辺が、炸裂煙の
黒い斑点で埋め尽くされました。

 斑点を突き抜けて、敵機の編隊が、
接近し、ぱっと編隊をひらきました。
距離5kmになり、満を持して矢矧の
機銃群が、火蓋を切りました。

 一本の棒のようになった艦上爆撃機
10数機が、左30度から突進して
きました。先頭のSB2Cが、ひょいと
右翼を持ち上げ、機首を落として
急降下に入りました。

 機首が、二、三度ふれたかと思うと、
矢矧に向かって猛然と突っ込んで
きました。

 井上氏は、「当たれ。落とせ。」と必死に
撃墜を念じました。敵機は、ついに爆弾を
切り離しました。敵機のエンジン音が、
むき出しの見張所にいた井上氏らの
身体をすくませました。

 爆弾は、鋭くうねりを発して、みるみる
その丸い輪廓を大きく膨れ上がらせました。
「当たるか?」と皆一瞬呼吸をつめました。
すると、爆弾は、歪みを生じて、尾部の羽が
現れました。井上氏は、「それる」と判断
しました。

 果たして、爆弾は、左舷後部に落下し、
真っ白い水柱を轟然と奔騰させました。
井上氏は、ホッとしました。しかし、
この状態をあとどのくらい、食らわな
ければならないのかと、思いました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 敵機の突撃 [軽巡洋艦矢矧]

 目の周囲が痛くなった井上氏でしたが、
このおかげで、神は、井上氏に、獲物を
授けてくれました。敵の艦上爆撃機
SB2Cを2機発見しました。

 井上氏は、双眼鏡に目をつけたまま、
喉も裂けよと声を張り上げて報告しました。
敵機は、あとからあとから、無制限に生み
落されました。まだ、砲撃距離に入って
いませんでした。

 艦橋には、「敵機は今まで確認したもの
約70機。機種はF6F、SB2C、TBF。」と
いった報告が慌ただしく飛びかって
いました。

 魚雷は、誘爆を避けるため、発射管が
旋回して、舷側に突き出されました。速力
26ノット。白波を艦尾に盛り上げ、
全艦隊は、まなじりを決して、
驀進しました。

 艦隊は、またたくまに数百機の敵機に
包囲されました。しかし、今更驚くことは
ありませんでした。敵軍の重囲を突破
しなければならないことは、出撃の時から
わかっていました。

 敵機の大群は、藻の間をくぐる池の魚の
ように、雲の間をつっきり、艦隊の上空を
一周しました。敵の編隊は2つにわかれ、
大和と矢矧に向かって、突撃を開始
しました。

 矢矧に向かってくる敵機だけで、ゆうに
百機はいました。これは、空母か、大和、
武蔵クラスの戦艦に対応する待遇でした。

 普段はのんきな井上氏も、これには
面食らいました。この艦隊に、榛名や伊勢、
日向といった戦艦が参加していないのが、
恨めしくなりました。

 井上氏は、改めて、沖縄には行けそうに
ないと感じました。そして、ついに、
「砲撃はじめ」の命令が下り、
主砲が火を吐きました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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