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巡洋艦矢矧 戦闘準備 [軽巡洋艦矢矧]

 井上氏の言葉に、タバコをふかしていた
曹長は、「もうすぐ対空戦闘だな。
そうなりゃ、大和が被害担当艦に
なるかな。

 でも、沖縄に届きさえすれば、
大戦果は確実なんだが。」と
返答してきました。

 この返答は、井上氏が思っていたことと、
ほぼ同じでした。頼もしいというのは、
ごまかしだと言えます。

 仕方なく、「存分に敵さんをやっつけて、
佐世保に入港でもしますかな。」と、
景気づけをしています。

 燃料は片道でしたが、沖縄に届いたら、
敵の燃料船を撃沈して、そっくり頂戴
すれば良いと考えていました。そのため、
井上氏は、至極天下泰平でした。

 曹長の見解と少し違っていたのは、
被害担当艦に対する考え方でした。
敵機が大挙して来襲してきたら、
大和と、矢矧と、駆逐艦だけと
なったら、配給不足と
とらえると考えました。

 そうなると、矢矧は、大物の列に入るし、
駆逐艦も配給を受けることになるはずでした。
数多くの爆弾、魚雷のご馳走攻めに合う
ことになり、ありがたくない展開でした。

 井上氏は、目算で、あと10分で敵機が
見えるだろうと換算した頃に、見張指揮所に
引き返しました。そこには昼食が届けられて
いました。

 レイテ沖海戦のときは、食事抜きで戦闘指揮を
行い、5日ほど便秘に苦しんだ体験をしていました。
今度は、遠慮する必要はなかったので、大きい
おにぎりを3個ほど平らげました。

 食事を終えると、急いで武装しました。艦内帽の
上から、鉄兜をかぶりました。頭がおさえつけられ、
気持は良くありませんでしたが、心丈夫になりました。
防毒マスクを、肩から斜めにかけ、改めて
12cm望遠鏡のレンズを磨きました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 敵機見ゆ [軽巡洋艦矢矧]

 見張員が発見した敵機は、上空で
頑張っていましたが、艦隊の進路を
横切って、九州の方へ飛び去って
いきました。

 こちらの存在には気づかなかったようで、
偽の航路は、成功したようでした。直ちに、
「敵機見ゆ」の旗が挙げられました。

 敵機は、今は気付いていなくても、
大型の艦隊が発見した以上、見つかるのは
確実でした。

 敵機が旋回し、艦隊に接近すると、
発見したのか、慌てて上昇し、雲の中に
姿を消しました。

 偽の航路をとる必要がなくなったので、
時を移さず、沖縄の東方海面を行動中の
敵機動部隊から、攻撃機が発艦してくる
はずでした。総員配置で来襲に備える
ことになりました。

 海はゆったりとうねり続けました。
時折、雲の間から、薄い陽光が差し
込んできました。井上氏は、のどかな
光景だと感じましたが、これは、
嵐の前の静けさでした。

 艦隊は戦闘隊形をひらき、大和を中心に、
各駆逐艦が、2.5kmの間隔を保って、
両側に占位しました。矢矧は、大和の
前方直衛につきました。

 しばらくすると、グラマンF6F戦闘機
20数機が出現しました。艦隊は、全対空火器を
敵編隊の方向に振り向けました。井上氏らは
緊張しましたが、敵の戦闘機は近づいて
きませんでした。

 航空援護の有無を探りに来たようで、
遠回りに旋回を続けるのみでした。
井上氏はひと息つけると判断し、
旗甲板に降りてみました。

 そこには、同じ見張士の曹長がおり、
タバコをふかしていました。井上氏は、
「大和を見ていると、本当に頼もしく
なりますね。」と話しかけました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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