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巡洋艦矢矧 殴り込み作戦中止 [軽巡洋艦矢矧]

 再び反転した栗田艦隊に、井上氏は、
今度はどんな妙手があるのだろうかと
考えました。その直後、敵機による攻撃が
ありました。この敵機に対応するための
反転でした。

 沖には空母の残存艦隊がいるようで、
すでに戦闘を重ねること十回にもなりました。
緊張しているものの、身体はクタクタでした。
矢矧は、疲労気味にローリング航海して
いました。

 その時、航海長が、上部見張所に上がって
きました。昨日は、艦長もきていましたが、
今は艦橋で発令していました。井上氏は、
その方が助かりました。

 航海長は、「長い戦闘でご苦労。」と声を
かけてきました。井上氏は、「上部の見張りは、
下部の見張りが潜水艦に熱中してくれた
賜物です。」と返答しています。航海長は、
各人の顔を確かめると、降りていきました。

 西の空は、夕日で、火のごとく燃え、海面は
次第に灰色を加えていきました。ところが、突然、
栗田艦隊は変針し、殴り込み作戦は、中止という
謎を残して、サンベルナルジノ海峡へ、引き上げて
いきました。

 10月25日のこの日は、矢矧の誕生日でした。
そこで、吉村艦長は、艦橋から艦内令達器へ、
「誕生日に戦果を上げ得て嬉しい。」と、
叫ぶように令達しました。

 吉村艦長は、矢矧の艤装員長から初代艦長と
なった方なので、心の底からの嬉しい叫びで
あったと思われました。これは、艤装員として
矢矧に乗り込んだ井上氏も同様で、涙を
誘ったとしています。

 とはいえ、敵の来襲はまだ続くと考えられるので、
この程度の戦果おごることは許されませんでした。
無事に引き上げるべく、見張りをさらに強化して
いきました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 機銃による喜劇 [軽巡洋艦矢矧]

 しばらくして、暗雲の中に、敵の機影群の
あることが、電波探信儀で補足されました。

 約200機が、層積雲の上端付近を隠顕
しつつ、来襲してくるということでしたが、
まだ遠いということでした。

 治療を受けてきた伝令は休ませ、代わりの者を
立てた後、もういっぱい紅茶をすすりました。
時は刻々と過ぎていきました。しばらくすると、
敵機が現れ、機銃掃射を受けることになりました。

 その時、上部見張所の最重要配置の5番にいた
大城兵曹が、甲板を這い回っていました。驚いた
井上氏は、何事かと大城兵曹のところに駆け寄り、
事情を聞きました。

 大城兵曹は、「機銃が、防火用のドラム缶を
貫通し、機銃弾が横腹をかすった。」ということ
でした。ドラム缶の水を背後から浴び、威力半減した
機銃弾を腹にかすらせたことで、腰を抜かして
甲板で這い回っていたようでした。

 顔は白くなっていて、気の毒であり、少しおかしくも
感じましたが、怪我はなく、戦闘中でもあるので、
井上氏は、「雷撃機に注意せよ。」と命じて、
配置につかせました。

 水上戦が終わりに近づいてきた頃、第七戦隊の
熊野が傾斜しながら列外に出ていきました。同じ
戦隊の鈴谷が、直撃爆弾を食らって、船体が
裂けて沈没していきました。

 水上の決戦が終わり、栗田艦隊は、矢矧を
先頭にレイテ湾への殴り込みを敢行すべく、
変針しました。間もなく、ホモンポス島が
見えてきました。

 レイテ湾が、指呼の間にせまってきました。
その時、栗田艦隊が、再び反転しました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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