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駆逐艦神風 陸軍兵士 [駆逐艦神風]

 波らしい波もない凪いだ海。そのままの
姿勢で沈めば、おそらく、上甲板スレスレの
深水しかなかったと思われます。しかし、
足柄は横倒しになったようでした。

 神風は、海面下に逃げ込む敵をとらえんと、
付近を高速で走り回り、爆雷を投じて、
ソナーを下ろして探索し、ソナーを
あげては爆雷投下を、繰り返しました。

 掃海戦をしつこく繰り返した後、次第に
足柄の沈没箇所に近寄っていきました。
ちょうど、足柄の艦型そのままに、おびただしい
陸軍兵士が、鉄兜を背負い、波間に集合して、
「勝ってくるぞと勇ましく・・・」の一大合唱を
始めていました。

 やがて、風模様が変わったのか、うねりの出た
海面に高くなり、低くなり、それでも歌は続いて
いました。

 暗号長が、「歌ってやがる。」と、雨ノ宮氏の
後方から声をかけてきましたが、雨ノ宮氏は、
返事できませんでした。

 兵器を命より大事にする陸兵らしく、白布をまいた
小銃を、海水から守るように両手をさしあげ、懸命に
喉をからして、歌っていました。神風は、救助活動を
はじめました。

 助け上げた陸軍兵士と、足柄の乗員で、神風は
混み合ってきて、隙間という隙間、機銃の下から、
舷側ハンドレールのかたわらで、どこもかしこも
すしづめとなりました。

 この状態は、羽黒の乗員を救助した時より、
ひどい満員状態で、神風自体、左舷に5度ほど
傾斜したまま、甲板士官や甲板下士の整列命令
にもかかわらず、一向に復元しませんでした。

 この日も美しい夕焼け空で、なんとも象徴的な
日没になりました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦神風 凄烈にして静かな最期 [駆逐艦神風]

 敵潜水艦2隻の間に渡りこんでしまった
神風の当直士官は驚き、「砲戦用意。
一番撃て。」「機銃撃て。」の命令を
出しました。

 「仮泊する。」という命令を聞いていた
雨ノ宮氏は、直後の戦闘命令に驚きました。
霧の中に黒い影が確かに左右に、立ちはだかって
見え、その中を神風は進んでいきました。

 少しに間があって、機銃の音がしましたが、
効果の程は不明でした。しかし、敵潜水艦も
驚いていたようで、あたふたと姿をくらまし、
何事も起きずに過ぎ去りました。


 1945年6月8日の朝、神風は、
先程の件もあったので、念入りに
付近一帯を対潜警戒しながら、
ジャワ島のジャカルタ港に
近づいていきました。

 午前10時頃、晴れ渡った空に小さな
入道雲が陸岸方向にいくつもたち、
若草色の水平線の彼方から、足柄の
マストの尖端が顔を出し、だんだんと
せり上がってきました。

 その時、見張員から、足柄を発見した
という報告が来ました。続いて、足柄の
前部砲塔が大きく見え、すぐに全貌が
現れてきました。

 雨ノ宮氏が、艦首左10度方向に足柄を
確認した瞬間、足柄の高さの3倍はあろうか
という巨大な水柱が3本、舷側近くに屹立
したかと思うと、水中を鈍い震動が走ってきて、
ズーンと腹の底を揺さぶってきました。

 「足柄に魚雷命中」という報告があり、
神風が急舵をきったので、艦が横に大きく
傾きました。

 足柄の火柱が次第に下降して、雨ノ宮氏が、
右舷に回って見たときには、足柄の勇士は
視界の外に消え去っていました。

 かつて、皇族の御召艦にもなった
気品ある名艦は、凄烈にして静かな
最期をむかえました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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