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巡洋艦矢矧 見張指揮の配慮 [軽巡洋艦矢矧]

 戦闘中に、伸びたり縮んだりする上野上水を
不憫に思った井上氏は、「敵さんの砲弾に、
そう頭を下げなくてもいいぞ。」と言って
あげました。

 すると、「そんなことはしておりません。」と、
笑いながら振り返ってきました。井上氏は、
笑いが出る元気があれば大丈夫と、判断
しました。

 しかし、その後も気味悪いと感じているのか、
遠慮しながら首を縮めていました。


 グラマンが、熾烈な機銃掃射を、して
きました。炒り豆のようなバチバチという
音が、ものすごいと感じました。癪に障った
井上氏は、グラマンの機銃装備を双眼鏡で
覗いてみました。

 そこには、前方、後方各8門合計16門の
機銃が張り出していました。前射来襲し、
後射退避するという仕組みであり、
受ける方は手がつけられないと
感じました。

 井上氏は、敵も考えたものだと感心して
いました。このグラマンの照射で、伝令員の
一人が、負傷したという報告をしてきました。

 井上氏は、上野上水に治療所につれていくことを
命じました。その際、ラッタルまでは、3人くらい
加勢すること、休養を取り、トイレは早く済ませる
こと、配置のものと交替し、配置のものは
しっかり見張るように命じています。

 そして、操艦の支障をきたさない時を
見計らって、航海長に報告してから、配給の
紅茶のみ、すすっています。井上氏は、
今朝から戦闘食の握り飯半分を食べただけ
でした。

 上記の詳細な指示と配慮は、見張員には
必要なことでした。見張指揮の隙間に、
敵が来襲してきたということを、防止
するため、トイレの必要がある食事は、
極力避けていました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 魚雷命中 [軽巡洋艦矢矧]

 矢矧が発射した魚雷は、敵空母の地点に
数十mの高さに大水煙を昇天させました。
水煙で、空母の姿が見えなくなりましたが、
おさまっても空母の姿はありませんでした。

 ものすごい轟沈だと井上氏は判断しました。
(上記の判断は、井上氏だけでなく、艦橋にいた
司令官や池田氏らも同様で、戦闘中に、万歳と
叫んでいました。しかし、戦後の記録から、
誤認であるとされています。)

 左側の空母は、艦橋付近に火を吐いてのたうち、
にわかに艦首が海面へ低く傾斜しました。帰るべき
ねぐらを失った艦載機は、右往左往して矢矧を
猛襲しました。

 グラマン雷撃機が、魚雷代わりに爆弾を持ち、
矢矧に向かって投下しました。その数は、
一回で7~8個でしたが、次々に
反復されました。

 矢矧にその爆弾のジャングルを転舵で
回避していきました。海に落ちた爆弾が、
激しく爆発し、その水煙柱が次々と
数十mの高さに昇天しました。

 脱出すると、今度は砲弾が飛来する音が
聞こえてきました。気味の悪い音響ですが、
遠弾であり、矢矧に命中することはないと
判断している井上氏は、我慢できました。

 しかし、井上氏のすぐ右隣の見張りに
ついていた数え年17歳の上野上水は、
遠弾音響の怯え、頭を叩かれた亀のように
首を縮めて両肩を上げていました。

 そのような恰好では、遠弾は防ぐことは
できません。弾音が聞こえている人間に、
弾丸が直接命中する心配はありません
でした。

 井上氏は、戦闘中にのびたり、縮んだり
する上野上水の恰好を、面白いと眺めて
いました。

 本人は夢中であり、双眼鏡は離して
いないので、役目は果たしていました。
井上氏は、身体護衛神経の反射作用
だろうと思いながら、不憫になって
きました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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