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巡洋艦矢矧 危機一髪 [軽巡洋艦矢矧]

 一時間後には来襲すると計算した井上氏は、
急いで、敵基地のタクロバン方向を探索しました。

 すると、敵機群は、20機あまりの編隊群を
いくつにも分散しつつ接近してきました。
艦長から直接、「雲が赤っているので、
上空見張りは特に注意せよ。」と命令が
ありました。

 矢矧の上空は、噴霧された蒸気のように白雲が
もうもうと広がっていました。その中に、敵機の影が
隠顕してきました。すぐ直上であり、井上氏は、
驚きました。

 「敵戦闘機3機、左上空、急降下」の報告は、
咽喉をひきさくようにほとばしり出たとしています。
その瞬間に、黒いものが3個、矢矧の艦上めがけて
落下してきました。

 航海長が面舵を命令し、真剣な眼で落ちてくる
爆弾を睨んでいました。井上氏は、わずかだが
どちらかに抜けると判断し、対空見張りに専念
しました。

 井上氏の予測通り、左前部海面10mの地点に
2個と、右前部至近に1個が落下し、数十mの
高さの水柱と水煙と硝煙の臭いとを、湧き
昇らせました。崩れた水柱が、矢矧の艦上に
落下し、井上氏は、真っ黒の硝煙臭い水を、
体全体に浴びることになりました。

 前甲板を見ると、火焔がペラペラと顔を
出しました。右に落ちた至近弾が、爆発の際の
圧力で、舷側に穴を開け、高熱が燃焼物を
発火させたようでした。破孔の位置が高く、
浸水の危険は少なく、天の助けでした。

 転舵が早ければ、左の爆弾が直撃し、
遅ければ右の爆弾が直撃弾となる
タイミングであり、危機一髪でした。
艦長の命令は、殊勲でした。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 武蔵被雷 [軽巡洋艦矢矧]

 大和と武蔵の零式撤弾が、天空に咲く
花火のような恐ろしい光景を見せ、
数機の敵戦闘機と爆撃機が、
木の葉のように飛び散り
ました。

 敵機は左往右往しつつ狼狽し避退しました。
避退すると、今度は代わって、別の編隊が
攻撃を仕掛けてきました。なかなか執拗で、
勇敢でした。

 タクロバン基地から次々と敵機が来ました。
それでも、空襲は、終末に近づいていました。
その時、武蔵の右前部に一大円柱状の水煙が
昇騰し、続いて数発の航空魚雷が命中しました。

 海が狭く、充分に散開できない不利が、
結果となって現れました。「やられた」と誰もが
思いましたが、武蔵は平然としており、何の痛痒も
感じないという恰好でした。

 前にもまして、砲座、機銃陣が火を吐いて
いました。第一波攻撃だけで、敵が断念
するはずはありませんでしたが、武蔵は、
そのまま航海を続行していました。

 魚雷は、発射方法を問わず、公算により
発射されるので、三艦編成の場合、二番艦に
狙いを定めます。そうすることで、外れても、
一番艦か、三番艦に命中する可能性が
ありました。

 今回は、二番艦が武蔵だったので、
狙われたのは当然でしたが、平然と
航海しており、不沈戦艦を思わせました。


 航海を続けていくうちに、北東の風に
送られた層積雲の先端が、艦隊上空を
覆い始めました。

 次の空襲が、この雲を利用して行われると
すれば、第一遊撃部隊は、不利な立場に
置かれることになります。

 井上氏は、敵機が、補給した上で、
再来襲してくるとすれば、約一時間後には、
艦隊上空に到達すると、計算しました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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