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駆逐艦磯風 軍医を呼びに [駆逐艦磯風]

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 井上氏は、同期の特年兵を見ると、顔色は死の色をして
いました。支えていた機銃員と変わり、抱きかかえて、
名前を呼びかけながら、小さく揺さぶってみました。

 この時は、まだ息はありましたが、胸部から血を噴き
出しており、背中まで貫通する重傷でした。井上氏は、
医務室に行き、軍医を呼んでくることにしました。

 後部機関室に行くと、海水と重油でベタベタになった兵士が、
手探りで上がってきていました。「電機は全滅です」「当直室の
扉に水圧がかかり、あけるのに難儀したらしい。だめかもしれ
ない」といった会話が聞こえてきました。

 井上氏は、誰かが滑り止めに撒いた砂の上を走って、医務室に
急ぎました。足元には、死傷者がゴロゴロしており、井上氏が
躓いた時、「痛い」という悲鳴があがりました。負傷者の一人に、
井上氏の足をつかんで離さないという行動をした人がいました。
まさに地獄の様相でした。

 井上氏は、這うようにして艦橋にたどりつきました。すると、
中から、井上氏が呼びに来た相手である軍医が、這い出して
きました。

 軍医も爆風にやられたようで、顔が焼けただれ、表皮は
きれいにむけていました。この軍医の姿を見て、同年兵の
応急処置を頼むのは無理とあきらめました。

(追記)
 井上氏が艦橋に来るまでに出会った負傷兵は、腕が
ちぎれて、赤い肉の部分が見えているといった人達で、
井上氏は、酸鼻をきわめた光景で、ふた目と見られない
ものと評しています。

 同年兵を助けたいという思いはあったものの、砂を
まかなければ歩けないくらい、甲板が血糊でベタベタに
なるほどの負傷者の多さだったため、軍医を呼ぶのは
ためらったということでした。


紹介書籍:駆逐艦磯風と二人の特年兵


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