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駆逐艦夕雲 生還の感激と・・ [駆逐艦夕雲]

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 出発しようとした直後、これまで終始
頑張っていた佐久間兵曹が、容態が
急変し戦死しました。

 左の胸に穴が2つも空いており、
重傷者の中でも特にひどい状態
でしたので、注意しながら
見守っていました。

 しかし、張り詰めていた心が急に
緩んだことで、負傷に敗れ、精魂
尽きてしまったようでした。

 「もうすぐ軍医のところに行けると
いうのに、運がない。味方の陣地に
着いて、歓待されて満足して逝かれ
たんだから、不幸中の幸いかも
知れない。」と惜別の言葉が
送られました。

 全員打ち揃って、生還すると励まし
合いながら、血をしぼる苦闘に打ち
勝ってきたのに、ついに一人
先立ってしまいました。

 ボートの中央に安置し、砲台兵に、
「武運長久を祈ります」と挨拶を交わし、
ボートは発進しました。

 樹上に小屋を発見してから、再び
発進するまでの僅かの間に、生還の
感激と、生死を誓った戦友の散華の
悲嘆と、悲喜こもごもの涙がありました。

 ボートは、砲台を離れていき、手を
振って、見送る砲台兵も、見送られる
27名もただ涙でした。

 ボートは相変わらず快調に進んでいき、
水先案内人も得た及川氏は安心し、
エンジン音もひときわ爽やかに
聞こえてきました。

 仲間たちは、これまで全く見られなかった
明るさで、語り合っていました。つい数日前の
不吉な予感だけが頭に充満していた暗い顔
ばかりだったのが、今は、つらさも、苦しさも
痛さも、遠い過去の思い出のように
忘れ去って見えました。

 みな、砲台兵のもてなしに、心から感謝の
気持ちを語り合っていました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介


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