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駆逐艦早潮 異様な陸軍兵 [駆逐艦早潮]

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 万事急がなくてはならないという岡本氏の
思いとは裏腹に、上陸する陸軍兵の動きは
機敏ではありませんでした。

 これから先、次の物資が供給されるのが
いつになるかわからない陸兵にとって、
現在身につけている携行品だけが
虎の子で、最後のものとなるかも
知れませんでした。

 そのため、陸軍兵の姿は、岡本氏には
異様に見えました。まるで雪だるまの
ごとくで、およそ身につけられる
可能性をためすがごとく、限度
ギリギリまで身にまとっていました。

 おかげで、その動作は、緩慢極まりない
有様でした。一刻を争う現在に、この動きは、
岡本氏の我慢の限界を超えてしまいました。

 岡本氏は、艇員に命じて、のろまの兵隊を、
片っ端から海に突き落とすという非情な命令を
発せざるをえませんでした。急がねばならない
岡本氏は、揚陸の終わった短艇から、順次、
帰艦するように命じました。

 他の短艇が沖合を目指すのを確認した
岡本氏は、自分が乗る内火艇に離岸を
命じました。その時、陸の方から呼んで
いる声が聞こえました。元気のない、
まるで蚊のなくような、かすれ声でした。

 岡本氏は気になり、陸地にもどり、
声のする方に向かいました。そこには、
5人ほどの陸軍兵が、銃を杖にして、
あやうげな足取りで、こちらにやって
くる姿が見えました。

 そして、「我々をあなたの軍艦に
連れて行ってください。」と、お願い
されました。

 異様な臭気と、やせ衰えた体躯から、
負傷兵か戦病患者と思われ、現地では
治療の方法もなしと、後送されてきた
兵隊たちだと判断しました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介


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