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巡洋艦大淀 定塚中尉 [巡洋艦大淀]

 3月も半ばを過ぎ、いくぶん暖かな日が 続くようになりました。そのやわらかい 陽射しを受けて、小淵氏は後甲板で 内火艇の覆いや器具の手入れなどを していました。  そこへ、去年の10月に、横須賀で退艦した 定塚中尉がひょっこり現れ、微笑みながら 小淵氏らの作業を眺めていました。  気づいた小淵氏らは一斉に立ち上がり、 挙手の礼をしました。定塚中尉は、 「みんな元気にやっているな。」と、 一人一人見回していました。  そこに、滑川二曹が、「ようおこしやした。 だがこれまたみすぼらしい格好で。」と言った ものだから、みんな一斉に吹き出してしまいました。 中尉が着ていたのは、色あせた作業服なので、 士官か兵か見分けがつきませんでした。  「暇があったので来てみた。」と言っていた 中尉にところに、滑川ニ曹が申告するような 大声で「ハイ。みんな元気で頑張っております。」 と応え、再び大爆笑が起こりました。そのような 分隊員の様子を見て、安心したようにガンルームの 方に歩み去っていきました。  小淵氏は、定塚中尉は出撃するので お別れを言いに来たのではないかと思い ました。潜水艦乗組を命じられて、大淀を 降りた定塚中尉は、回天にでも乗り込んで 今夜にも出撃するのかも知れないと感じました。  小淵氏は、定塚中尉とは一緒のお風呂に 入り背中を流し合ったり、ガンルームの食堂で 酒の相手をしたことなどを想い出しました。 優しかった中尉も言ってしまうのかと 考えました。  小淵氏は、先日目撃した特攻隊員のように 子犬を連れて行くのか、何なら自分を連れて 行ってくれないだろうかと、あれこれ想像し、 感傷的になりました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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巡洋艦大淀 水上特攻 [巡洋艦大淀]

 休暇中、艦内に残っている者で、色々な 整備作業が行われていました。  最新鋭の軍艦でも、こんなに手入れしなければ ならないのだから、旧式の艦はさぞ大変なこと だろうと想像しました。  さらに、小淵氏の休暇中に、艦長が交替して いました。牟田口前艦長は、戦艦伊勢の艦長に 栄転されました。小淵氏は、なぜこんなに早く 艦長は変わるのだろうかと考え、牟田口艦長が 去ったことに、言いしれぬ寂しさを感じました。  3月16日、小淵氏らが外舷の塗装作業を しているとき、今まで噂があった水上特攻隊 として出撃する艦が動き出しました。大淀は 選ばれませんでした。  大和が出撃することは早くから決まって いましたが、巡洋艦は分かりませんでした。 大淀は、有力な候補となっており、そのため、 遠方の墓参休暇が許されたのだと囁きあって いました。  しかし、“残念ながら”、大淀は選ばれず、 意外にも矢矧と冬月、雪風、磯風などの 数隻の駆逐艦を従えて動き出しました。  小淵氏は、大淀が選ばれず、矢矧が 行くとは思ってもみませんでした。 重巡洋艦の利根や青葉ならあきらめが つきましたが、矢矧がまっさきに 動き出したと、がっかりしました。  しかし、艦内では、そのうち大淀も 水上特攻の命令が下るだろうと、噂しあって いました。遅かれ早かれ、内地に残っている 軍艦は敵艦隊の中に突入して、砕け散る 運命なのだという思いが、乗員の気持ちの 底にはありました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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