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巡洋艦大淀 息も絶え絶えの退避 [巡洋艦大淀]

 角田上水の、「総引退避」の声で、 小淵氏らは、壁に立てかけてある防毒 マスクを素早く掴むと、みんな一斉に 退避し始めました。  角田上水には、連絡のため残るように、 号令官が命令していました。  小淵氏は、マスクを持って外に飛び 出そうとしましたが、砲術士が、「マスクが ない。」と言うので、自分の持っていた マスクを渡し、そのままタラップを駆け 上がりました。下甲板は電灯も消え、 煙が充満していました。  天井の赤黒い焔が悪魔の舌なめずりの ように這い回り、闇の底から呻き声が洩れて いました。飛び散っている屍を踏み越えて、 昇降口にやっとたどり着きましたが、苦しさの あまり死んだほうが楽になれるという思いが 脳裏をかすめました。  意識が薄くなっていたところ、艦は 再び激しい衝撃を受け、防火用の ドラム缶が、転がって来ました。  ハッとなり、夢中で中甲板を上がると、 明るい光の射し込んでいる昇降口を 見つけ、息も絶え絶えになりながら、 上甲板に這い出しました。  胸は鉛を飲んだように重苦しく、五体の 感覚はなくなっていました。呆然と見開いて いる眼の前を、急降下してくる敵機が ありました。  その翼下に、天応海岸の松が見事な枝を 差しのべていました。太陽に映えた鮮やかな 緑は、心が和む色合いでした。  背後では、敵機の銃弾が、キュンキュンと 弾け飛びました。これはいったいどうしたと いうのだろうかと感じました。そして、 角田上水が発令所に残っていることを 思い出し、早く退避するように促すことに しました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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巡洋艦大淀 呉軍港での対空戦闘 [巡洋艦大淀]

 艦橋下部の入り口の所で、小淵氏は飛行機の 様子を見ました。すると、先頭の編隊は、大淀の 上空を通過し、港口上空に達し、そこで翼を ひるがえして急反転していました。そして、 港内の各艦を目掛けて、各個に突入してくる 構えでした。  小淵氏は、「敵機だ。奇襲だ。」と夢中で 主砲発令所に飛び込みました。続いて、 みんなが飛び込んできました。  大急ぎで射撃準備をして、急襲する敵機に 向かって主砲が咆哮しました。高角砲も 速射を始め、機銃も敵機に立ち向かい ました。  大淀は、こうなれば敵機に対して無類の 強さを発揮し、次々に撃墜していきました。 今まで、無傷で戦い抜いてきた大淀の 対空砲火は、その本領を遺憾なく発揮 しました。  その激しい砲火に、向かってくる敵機は いなくなったのか射撃が中断しました。艦内に 静寂なひとときが流れました。  このとき、艦は回頭していました。小淵氏は いつの間に出港したのかと感じました。発令所に いた小淵氏は、全く気が付きませんでした。  休暇中で欠員が出ている状態での戦闘 だったので、誰もゆとりがありませんでした。 艦は回頭のためグラグラ揺れていましたが、 その瞬間大音響とともに艦は激しく突き 上げられ、小淵氏らは、床に叩きつけ られました。  慌てて起き上がったとき、再び物凄い 轟音と同時に、激震が襲い、全員が なぎ倒されました。  すると、伝令の角田上水が、「発令所、 総員退避。」と悲痛な声で叫びました。 入り口の鉄扉が押し開けられると、煙が どっと流れ込んできました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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