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巡洋艦大淀 利根の発砲 [巡洋艦大淀]

 静まり返った港内に、山の手方面から 爆音が聞こえ、単発の飛行機が編隊で 飛んできました。  市街地裏山の稜線上に次々と現れた 編隊は、軍港上空を目指して飛んで きました。  小淵氏は、「だいぶ大勢でやってきたな。 どこに出撃していくのだろう。」と作業の手を 休め、出撃していく空の勇士を小手を かざして眺めていました。  最新鋭の単発機のようで、勇ましい爆音が 港内に響き渡りました。見事な編隊飛行で、 港内上空に差し掛かり、伊勢、日向、榛名の 上空を通過して大淀の上空に向かって きました。  すると、突然利根が、編隊の中に高角砲を 撃ち込みました。垂直に近い角度で、2門くらい 発砲したらしく、弾幕が広がりました。  編隊よりだいぶ下で、数機が動揺したよう でしたが、そのままの編隊で飛び続けて いました。  小淵氏は、「味方機に発砲してしまって。」と、 利根に憤然としました。同時に、敵機ではないか というかすかな疑念も生じました。  しかし、他の艦は発砲していませんでした。 陸上でも、発砲はおろか空襲警報のサイレンすら 鳴っていませんでした。軍港の周囲には高角砲 陣地や、防空指揮所があり、敵機が来襲すれば いち早く港内の艦船に通知されるはずでした。  しかし、利根は再び発砲しました。これで、 戦闘配置に向かって駆け出す者、味方機と 思っている者、確認すべく見つめる者、誰もが 一瞬戸惑っていました。  小淵氏は、利根が二度目の発砲をしたとき、 左舷甲板上を全力で疾走していました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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巡洋艦大淀 呉軍港 [巡洋艦大淀]

 3月19日、朝食を済ませた小淵氏は、 受け持ちの後甲板上に、各種の器具や 備品を運び出して手入れしました。まだ 休暇中のため、戦闘訓練はまるっきり 行われていませんでした。  この当時日本に残っていた艦船は、 戦艦が、大和、長門、榛名、伊勢、日向の 5隻、重巡洋艦が、利根と青葉の2隻、 軽巡洋艦が、大淀、矢矧、酒匂、北上の 4隻でした。  空母は、竣工したばかりの天城と葛城、 最古の鳳翔のみでした。他には、実戦向き ではない練習巡洋艦鹿島と、艤装中の空母 海鷹がありました。  200隻を数えた駆逐艦も今は数えるほど しかなく、潜水艦もわずかしか残っていません でした。  日本以外の場所に、足柄、羽黒、高雄、妙高の 重巡洋艦4隻と軽巡洋艦の五十鈴がいましたが、 内地に帰ってくる道は閉じざされていました。 同時に、軍艦が必要とする燃料も尽き果てて いたということでした。  小淵氏は、当時はこのような状況だったと 知らされておらず、天城、葛城に続いて新鋭 空母が竣工すると期待していました。大和ら 水上特攻部隊は、出撃準備のため、江田島の 近くにいました。  呉軍港は、港を取り囲むように市街地が あり、その裏手は小高い山並みになって いて、横須賀のように入り組んでいないので、 港内の艦船は、ひと目で見渡せました。 上空は三方を山に囲まれ、谷間のような 感じの港内でした。  やがて、8時になろうとしていました。 小淵氏らは、春のうららかな陽射しを 浴びながら、器具の手入れに余念が ありませんでした。港内は風もなく、 静まり返っていました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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