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巡洋艦熊野 台風通過 [巡洋艦熊野]

 熊野を曳航した道了丸は、海防艦と
一緒に、午前7時出港し、マタ31船団の
後を追いました。

 内地回航の出鼻をくじかれた熊野は、
サンタクルーズにおいて、海防艦と
交替した掃海艇と一緒に、前途多難を
予想される停泊状態に入りまいた。

 入港して2日後の11月9日、猛烈な台風が、
ルソン島の南から北へ弧を描いて吹き抜け、
サンタクルーズ付近を通過しました。この日の
午後から強まった風雨は、夜に入り、ますます
激しさを増していきました。

 何時頃だったか、兵科事務室で雑談していた
左近允氏は、妙な衝撃を感じました。どうやら
走錨のようでした。直ちに配置につけのラッパが
鳴り響きました。左近允氏は、艦橋に駆け上がると、
外は、真っ暗でした。

 艦橋前面上部の風速計は、30m~40mに
なっていました。艦首にあった5.5tの主錨でも、
風速20mの時は、錨鎖をのばして、一方を
振止錨としてしようし、走錨を防止していました。

 まして、今の熊野は、1.5tの中錨しかなく、
掃海艇に曳索をしていただけでは、走錨が
起きるのは当然と言えました。左近允氏は、
今、熊野がどこをどう動いているのか、
全くわからない状態でした。

 しかし、前方の陸上に探照灯の明かりが見え、
徐々に近づいているので、このまま流されれば、
座礁することは確実でした。今は、敵の攻撃では
なく自然災害でしたが、緊張感は戦闘の時と
全く変わらず、むしろ、より不気味でした。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦熊野 サンタクルーズに戻る [巡洋艦熊野]

 熊野では、機械室に魚雷を受けた時の
訓練は、しばしば行われていました。

 その時、右舷命中した時は、浸水は
右舷だけという想定をしていました。
しかし、実際は、4つの機械室全てが、
浸水してしまいました。

 熊野は、道了丸に曳航されながら、
何事もなく一夜が明けました。翌朝、
左近允氏は、目をこすりながら、
艦橋に上がると、陸が、反対の
右舷側にありました。

 夜に、風と潮が向かいになり、進まなく
なったので、サンタクルーズに引き返して
いるということでした。護衛は、駆潜艇から、
海防艦に交代となっており、付き添って
いました。

 熊野は、道了丸に引かれて、1.5ノット
ほどで進んでいました。この後、狭い水道を
通る必要がありますが、重いので変針が極めて
難しく、うまく通れるだろうかと心配になりました。

 艦橋では、艦長、航海長、運用長が、変針方法を
協議していました。午前7時頃、変針のために、
海防艦が、熊野の両舷に曳索をとってみましたが、
うまくいきませんでした。

 次に、道了丸に海防艦が曳索をとり、
道了丸の船首を曲げてやるということを
して、ようやく成功しました。

 海防艦が一番小さく、道了丸、熊野の順に
大きくなります。今の様子は、農夫が、
大きな荷車を引いている馬を引いている
図になっていました。

 午後2時頃、サンタクルーズに入港し、後部から
錨を投入しました。ここまで曳航してくれた、
道了丸に対し、人見艦長は、丁重な感謝の
信号を送り、糧食や酒保物品を、届けました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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