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駆逐艦夕雲 撃沈 [駆逐艦夕雲]

 海の飛び込んだ及川氏は、30mほど
離れたところで、夕雲の方に見ました。

 夕雲は、猛烈な火炎に包まれていた
艦橋も海中に没し、残光に照らされた
軍艦旗は、ひたひたと海中にくぐって
いきました。

 及川氏は、おもわず「万歳」という声が、
のどからほとばしり出ました。すると、
周りにいた乗員も、及川氏の声に呼応
するかのように、海面のあちこちから、
「万歳」と艦に別れを告げる声が
上がってきました。

 朝夕に仰ぎ、無限の誇りを感じさせて
くれた軍艦旗も、ついに海中深く消え
去りました。

 闇の海面にしばらく鳴り渡っていた
万歳の声も、やがてやみ、海面は墨を
流したような暗闇に返りました。

 及川氏は、夕雲も軍艦旗もついに
沈んだと実感しました。

 ここからは、残油が浮き上がってくる前に、
遠くへ離れる必要がありました。しかし、泳ぎ
始めて間もなく、後方に光を感じ、次の瞬間、
巨大な火柱が上がり、一面真昼のように
照らし出されました。

 みるみる一帯は火の海になっていきました。
残油が火災を伴って浮上するという、及川氏が
恐れていたことがおきました。そして、火炎は、
及川氏目掛けて突進し、背後に迫りました。

 及川氏は、こんな火になめられてなるものかと、
力泳しました。しかし、背後から迫る火炎は、
及川氏の後頭部を焦がすように熱くしました。

 仕方なく潜水すると、頭の上を真っ赤な炎が
追い越していき、前方に広がっていきました。
及川氏は、海中で「負けないぞ。死んでなる
ものか。」と誓い、頑張ろうと決意しました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 夕雲を離れる [駆逐艦夕雲]

 夕雲は、下士官の報告通り、艦橋から前部が
左に折れ、猛烈な火災で上甲板には、海水が
上がっていました。これでは、艦橋に連絡しても
応答がないのは当然と思いました。

 炎の灯で、後甲板がわずかに海面から
浮いているのが分かりました。及川氏は、
総員に後甲板に行くよう命じ、海水が
あふれる甲板を、後部へ向けて駆けて
行きました。

 この時、右舷300mくらいのところに、
小山のような黒い影が見えました。及川氏は、
救助にきた味方艦だと思い、安心しましたが、
いきなり機銃掃射を受けました。

 艦もろとも280余名の乗員を海底に
葬り去ろうとしながら、機銃掃射してくる
敵艦に、憎しみを感じました。

 しかし、戦争である以上、より多くの敵を
倒せば勝つというのは真理であり、及川氏が、
後甲板に向かう間も、何人もの乗員が音を
立てて倒れていきました。

 及川氏も、目の前を弾丸が通過し、観念
しそうになりながらも、倒れるものかと
後甲板に走っていきました。不思議と、
弾丸は及川氏のことを、素通りしました。

 しかし、及川氏が、後甲板にたどり着くと、
そこにいた乗員は機銃掃射で右往左往して
いました。機銃捜査が続く中、夕雲は
沈んでいき、及川氏の足元まで、海水が
つかってきました。

 容赦なく艦を呑み込んでいくさまを見て、
艦と訣別する時が来たと感じました。ため
らっていた戦友たちは、反射的に、海中
めがけて、飛び込んでいきました。

 及川氏も限りない愛惜を断ち切って、
海に飛び込み、一刻も早く艦から遠ざかる
べく、無我の境地で泳いでいきました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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