SSブログ

駆逐艦早潮 あせる心 [駆逐艦早潮]

 岡本氏は、こんな闇夜では、敵機の来襲は
あるはずないと考え、最も恐ろしい魚雷艇の
出現を警戒していました。

 マッチ箱のようなボートの列に、高速で
突っ込んでこられたら、めちゃくちゃに
なるのは目に見えていました。

 少しでも早く進みたいと思いながら、
速度を出せば、曳航している浮舟は
危険になるし、カッターは手漕ぎ
なので、ついてこられなくなります。

 そうこうするうちに隊列は、前方に
進んでいきました。岡本氏は、
双眼鏡を使って、山の稜線を
見ました。

 しかし、山頂は曖昧模糊としており、
先任将校の注意事項にあった特異点は、
見極められませんでした。

 しかも、最も頼みとなる上陸地点を
示す青ランプが、一向に見えません
でした。

 300mは近いので、一気に持って
いこうと考えていた岡本氏の思惑は、
ゆるぎ始めました。

 後方を見ると、早潮の姿は、暗闇の中に
消えていました。不安が募った岡本氏は、
艇長に、「針路が大丈夫か」と怒鳴り
ました。

 それに対し、ベテランの艇長は、
「大丈夫です」と怒鳴り返してきました。

 後続の短艇もはぐれることなく、
必死にあとに続いてきました。
その様は、愛おしかったと
しています。

 岡本氏は、指揮官たるもの、このような
ときこそ、平常心を失ってはならないと考え、
あせる心を抑えて、なおも前進を続けました。

 しかし、不思議なことに、陸地に
なかなか接近できないという不思議な
現象に、悩まされることになりました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
nice!(0)  コメント(0) 

駆逐艦早潮 揚陸作戦開始 [駆逐艦早潮]

 墨を流したような真っ黒な夜でした。
海面は穏やかで、駆逐艦は、舷側が
低いので、乗艇には、それほどの
難儀はありませんでした。

 しかし、兵隊たちの携行品は、限度
いっぱいまで身につけているので、
雪だるまのような格好になって
いました。

 しかも、命より大事な小銃を、しっかり
握っていました。陸兵さんも、やかましく
怒鳴り散らされるうち、全員が無事
乗艇を終えたようでした。

 岡本氏は、第一内火艇の指揮をすることに
なりました。艦上から先任将校が、
「よかったらはなせ」
と、叫んできました。

 その直後、6そうの艇は、次々と離艦
しました。揚陸作戦を開始しました。

 陸軍が持ち込んだ組立式浮舟は、武装兵
6人ぐらいしかのれず、しかも、内火艇で
引っ張っていくしかありませんでした。

 第一内火艇を先頭に、第一カッター、
第二内火艇、第二カッターの順で、
隊列は粛々と、不気味な静けさの
中を、進んでいきました。

 岡本氏は、第一内火艇の艇首にある
操縦室の天蓋をまたいで腰をおろし、
目をサラのごとく見開いて、四周を
見張っていました。

 早潮を離れた時から、ガダルカナル島の
稜線は、暗い夜空に薄ぼんやりと見えて
いました。

 岡本氏は、山陰を目指して、針路を
定めました。そこが揚陸地点であり、
青いランプが、到着を待っている
はずでした。

 艇の針路は、艇長がしっかりと舵を
握っていました。陸地までは300mで
あり、海上の300mはすぐそこという
感覚でした。

 岡本氏は、警戒に全神経を集中し、
後続する艇を誘導していきました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。