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駆逐艦夕雲 航空機接近 [駆逐艦夕雲]

 航空機の爆音が聞こえましたが、敵機か
味方機か判断はつきませんでした。

 南東の方角だとすると敵機のような気がし、
味方機の爆音のようだと思えば、そのようにも
聞こえました。

 味方機ならば、悲願は案外簡単に達成
させられることになる。反対に、敵機だったら、
我々の命は、余すところ2~30分という事に
なりそうでした。

 その幸運か不運を分ける瞬間が、刻々と
頭上に迫ってきました。言い知れない気分に
かられながら、空を見上げると、南東の
空から次第に爆音も明瞭に聞き取れる
ようになってきました。

 音の方を眺めていると、黒点が視界に入り、
膨れ上がってきました。味方機であることを
念じながら、黒点に見入っていると、
600mくらいまで近づいたところで
急降下してきました。

 100mほどまで近づくと、頭上めがけて
突入してくるように見えました。一瞬、独特の
金切り声のような音を頭上に響かせながら、
直上をかすめ去っていく時、星が見えました。

 希望虚しく見送っていると、大きく旋回
しながら、なおも高度を下げて、海面
2~30mの超低空を、輪を描きながら
飛び続けていました。

 その間に、別の大型飛行艇が、悠然と
旋回しながら、着水態勢に入りました。
これも、胴体と両翼に星のマークがあり、
その威力を誇示するように見えました。

 同時に最初に来た戦闘機が、波紋を
立てていた付近に小さな缶のようなものを
投下していました。すると落下した海面から
白煙が上がりました。発煙筒を投下している
ようでした。

 そして、発煙筒目掛けて大型飛行艇が
着水していきました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 その他の漂流者 [駆逐艦夕雲]

 風一つない海面には、相変わらず
おびただしい浮遊物が、一面に広がって、
静かに漂っていました。

 その浮遊物の合間に、時々波紋を
描きながら、我々と同じ運命に突き
落とされたかつての強兵が、かろうじて
自分の浮力を助ける木片にすがり
ついて、漂っていました。

 及川氏は、「こっちに寄って来い。
筏があるからつかまれよ。」と
呼びましたが、返答が
ありませんでした。

 一晩中、孤独で泳ぎ回って、少々
頭が変になったかわいそうなやつ
だと思いました。

 さらに辺りを見回すと、他にも何名かが、
浮いているのを発見しました。及川氏は、
夕雲250余名の乗員のうち、生き残りが
24人ということはないと思い、我々の
仲間が、相当生きて、この辺りを
漂流していると判断しました。

 及川氏は、改めて、夕雲が沈んで、
軍艦旗に訣別の万歳を叫んでいる時、
後部砲塔付近にも、なお相当数の
戦友たちがいたことを思い出しました。

 また、艦橋下に雷撃を受けて、夕雲は
前後に分断されたので、前部にいた
乗員は、そのまま前甲板から、海中
目掛けて飛び込んでいるに違いないと、
感じました。

 朝まで頑張り通す事ができなかった者は、
夜明けをまたずして、沈んでいったのだろうと、
判断しました。

 その時、自分の耳を疑うように、すみきった
空の一角から、かすかに爆音らしいものが
聞こえてきました。

 しばらく耳をそばだてていると、爆音
でした。しきりに向きを変え、どちらから
聞こえてくるのか確認していると、
南東の方から聞こえてくるよう
でした。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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