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駆逐艦夕雲 敵の舟艇 [駆逐艦夕雲]

 やがて、戦闘機の旋回の輪も次第に
大きくなり、浮遊物の外周を2~3回して、
順次その高度を上げて、救助作業終了を
示すかのように、南東に飛び立って
いきました。

 その後を追うように、飛行艇も舞い上がり、
高度を上げながら機影が遠ざかりました。

 敵機が去ると、焦げ付くような炎熱に
照らされ、負傷、飢餓、疲労がおしよせる
責め苦に悩まされました。

 この時のうめきは、この世の地獄もかくやと
思われ、これも不運の星に生まれたものの、
因果応報かとあきらめを感じていました。

 しかし、生還するという意気だけは、
燃え上がっていました。及川氏らは、
「夕雲全員玉砕なんてゴメンだ。

 亡き戦友の霊に報いなければならない。
気を落とすな。強く生きるんだ。」と、
励まし合いました。

 すると、油を流したように凪いでいる
水平線から、白波を押し分けながら、
異様な舟艇が、全部で5隻進航して
きました。

 当然、及川氏は、敵の舟艇が、我々に
とどめを刺そうとしていると、判断しました。
敵の舟艇に気づいていない仲間に予め
知らせる必要があると、及川氏は判断
しました。

 及川氏は、士気が下がらないように、
わざと落ち着いた態度で、話しかけました。

 「まだ生存している者がいると
見えて、今度は哨戒艇らしきものが
やってきたぞ。

 何も今更慌てることはない。覚悟は
できているんだから、落ち着いて
彼らのやることを見ておこう。」

 これに対し、仲間の一人が、「1、2隻なら
欺瞞捕虜になってぶんどるという手も
ありますが、5隻じゃ歯が立ちませんね。」と、
もっともらしいことを言っていました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 手際の良い救助 [駆逐艦夕雲]

 及川氏は、発煙筒を降下させたところに、
敵の飛行艇が着水するのを見て、我々の
仲間を捕虜にさらってゆく目算らしいと
判断しました。

 しかし、注意してみると、水面に浮いている
連中が、やたらに片手を振って、飛行機に
合図を送っているのが見えました。その
合図の位置に、発煙筒を落としている
ようでした。

 飛行艇が着水すると、胴体の扉が開きました。
海面にいた人達が、泳ぎよっていきました。
艇内から差し伸べられた手で、胴体に吸い
込まれるように入っていきました。

 扉が静かに閉まり、次の白煙の位置に
飛行艇が走り、救い上げていました。
これを何度も繰り返していました。

 及川氏は、その救出の手際の良さと、
純白の服に包まれた看護婦がいたことに、
驚きました。

 そして、最前線で、看護婦をお目に
かけるとは、夢にも思ってもいません
でした。感心しながら、救助作業を
見守っているうちに、不審が湧いて
きました。

 夕雲の仲間が、敵に手を振って合図を
送り、敵の飛行艇に泳ぎよって、救い
上げられるということは、考えられません
でした。

 日本軍人は、敵の捕虜になることを
恥辱としています。今、救助されてるのは、
夕雲の乗員ではないのだろうと思いました。

 先程呼びかけても返事しなかった理由が
明確になりました。及川氏は、夕雲が
やられた直後、ものすごい火柱と、
轟音があり、腸をむしられるような
振動が水中を伝わってきたことを
思い出しました。

 及川氏は、この時、初めて、夕雲とほぼ
同じ時刻・場所で、敵艦が撃沈していたことを
知りました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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