SSブログ

駆逐艦夕雲 応急処置 [駆逐艦夕雲]

 軍医代行を命じられた仲間は、救急箱を
開け中身を確認すると、あまりの内容物の
豊富さに驚きました。

 「持てる国は、救急箱まで豪勢なもの
ですね。」と感心しながら、慣れない
手付きで、治療が始められました。

 「これしきの傷、大したことはない。
今治療してやるから、すぐ治る。元気を
出せい。」と励ましながら、治療して
いました。

 及川氏も手伝いましたが、目をそむけたく
なるような、惨めさでした。それでも応急
治療を一段落して、ボートは、快調に
動いていました。

 空は、一片の雲もなく、晴れ上がり、生還を
祝福するにふさわしい好天でした。しかし、
前方には、島影らしきものが、まったく
見えませんでした。舵を操作していた
乗員は、焦り気味になっていました。

 及川氏は、「途中大休止を3回も挟んで
いるが、6ノットで航行しているので、
60海里は走っている。数時間で島が
見えるだろう。」と励ましました。

 及川氏は、それまでエンジンと燃料が
持つか、確認しました。すると、
「燃料は、3分の1ほどしか
消費しておらず、この調子なら、
後一昼夜は平気です。エンジンに
無茶はさせません。」という
返事でした。

 この返事を聞いた及川氏は安心し、
後の心配は重傷者でした。応急処置は
しているものの、気休めにしかならず、
ブインまで保つのか心配になって
きました。

 しかし、及川氏らに、これ以上、施す
ことがありませんでした。残るは本人の
鍛え上げられた軍人精神の頑強さに
期待するしかありませんでした。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
nice!(0)  コメント(0) 

駆逐艦夕雲 二日目の夜明け [駆逐艦夕雲]

 「死んではならぬ、生きて帰るんだ。
幾度も押し寄せる辛酸も克服して、
頑張り通さねばならない。」と、
拳を握り、考え込んでいると、
夢を破るような大きな声で、
「爆音」という叫びが
聞こえました。

 この夜、敵の航空機が飛んできおり、
これで3度目でした。及川氏は、
「我々の脱出に気づいて、しつこく
追跡を繰り返しているのかも知れない。」
と考えました。

 すぐさまエンジンを切り、豆電球を
消すと、艇内は真っ暗になりました。
爆音は次第に大きくなり、超低空の
哨戒機は、刻一刻と頭上に迫って
きました。

 今度こそとどめを刺されるという、
緊張の中、航空機の青い光を追って
いると、やがて頭上に迫ってきました。

 緊迫感がみなぎってくる中、固唾を
のんで見守っていると、頭上を通り
過ぎていきました。今度も見つからな
かったようでした。

 3回も見つからずにやり過ごせた
ことで、幸運に恵まれていると確信
しました。

 航空機が去ると、直ちにエンジンを
起動して、出発しました。発進して
7時間くらいたっていましたが、
エンジンは好調で、悲願成就も
目前でした。

 苦闘に勝ち抜いた仲間たちは、エンジンの
爆音の中、安息をむさぼっていました。
及川氏は、一刻も早く夜が明け、救急薬を
使えるようにならないかと、空を見上げ
ました。

 右後方は、星がまばらになってきて
いました。夜が明けてくるようでした。
及川氏は、「夜が明けてきたぞ」と
叫びました。二日目の夜明けでした。

 そして、早速、救急薬で、応急の治療を
することにしました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。