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駆逐艦夕雲 ボートまで進む [駆逐艦夕雲]

 及川氏は、風が出てきたこともあり、
3名の先発隊を選んでボートまで
先行させることにしました。

 先発隊には、ボートまで泳ぎ、風で
流されないようにするために、艇首を
風上に向けること、そして、もし、櫂が
あれば、筏まで、向かうように命じました。

 その上で、先発隊を募ると、7名ほどが
手を上げました。及川氏は、無傷で水泳が
達者な人3名を選びました。

 選ばれた3名の内、最も水泳が達者な
鈴木信雄兵曹をリーダーとしました。
そして、いくつかの注意事項を与え、
早速出発させました。

 しかし、ボートまでは1500mほどあり、
夕雲が沈んでか飲まず食わずで、筏に
すがりついて20時間、一睡もせずに
炎天に焦がされ疲労は蓄積していました。

 及川氏は、自分の命令に元気に復唱した
3人を見送りました。先発隊の無事を
祈りつつ、残る全員で筏を漕ぎ出し
ました。

 この時は、負傷も疲労も忘れ、掛け声に
合わせて、力を振り絞りました。そこには、
歯を食いしばり、黙々と漕ぎ続ける18人の
力の固まりだけがありました。

 太陽は水平線に隠れ、焦げ付くような
炎熱もどこかへ消え去って、遭難から
2日目の夜が近づいていました。

 先発隊を見失わないように見つめて
いると、先発隊の二人が戻ってくるのが
見えました。及川氏は、やはり無理
だったかと判断し、二人を迎えました。

 戻ってきた先発隊は、「お腹が空いて、
手も足も動きません。」ということでした。
しかし、リーダーの鈴木兵曹の姿が
ありまぜんでした。

 どうしたのか尋ねると、鈴木兵曹は、
ぐんぐん泳いで行ってしまったということ
でした。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 ボートを発見 [駆逐艦夕雲]

 日本軍は救助に来ないのかと、義憤に
かられていた及川氏は、辺りを見回した時、
ボートの影を、2隻見つけました。

 最初目の錯覚かと考え、見直しましたが、
やはり2隻のボートが浮いていました。
距離は1500mと言ったところでした。

 しかも、ボートには、人影らしいものは
見えませんでした。及川氏は、天の恵みと
考え、「ボートが流れてきたぞ。

 無人艇らしい。俺の指先の方を見てみい。」
と大声で叫びました。まるで屍のように
動かなかった仲間も反応し、「どこですか」と
及川氏が指す方角を眺めました。

 仲間は、何か流れているのはわかった
ものの、ボートとは分からないようでした。

 そこで、及川氏は、説明の上で、
ボートを分捕って帰る以外にないと
発破をかけて、ボートを分捕ってくる
ように提案しました。

 即座に賛成が得られましたが、「ボート
までの距離が遠そうだ」という意見に、
及川氏は、わざと距離を短く言って、
一生懸命漕げば難事じゃないとして、
諦めるのかと問いかけました。

 乗員からは、「分捕って帰りましょう。」と、
皆が声をそろえました。気力が盛り上がって
きたと感じた及川氏は、ここで初めて、
やる上での困難な点を明確にし、
やるなら自分が指揮するが、それでも
実行するか再度、問いかけました。

 乗員からは、「どんな命令、号令にも
服従しますから、ボートを分捕って
下さい。」と宣誓で答えてくれました。

 これならやれるという手応えを感じた
及川氏は、すぐに実行することにしました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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