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駆逐艦夕雲 敵軍に対する認識 [駆逐艦夕雲]

 敵を見送っていた仲間の一人が、
「敵も、“窮鳥ふところに入るときは、
猟師もこれを殺さず”ってことを
知っていると見え、まんざらでも
ありませんね。

 残虐非道は、彼らの日常茶飯事と
思っていたが、彼らには、紳士も
いますね。」と感嘆していました。

 及川氏も全くの同感で、「ヤンキーと
言っていた人達も、見直さなければ
ならんね。」と言うと、別の人が、
「鬼畜英米でも何でもありませんよ。
立派な紳士ですよ。

 もし、日本の軍人があの立場になった
場合、あれだけやりましょうかね。
やっぱり、全てに余裕を持って戦争を
していると、精神的ゆとりができるので、
この惨状を見れば、自然と人間らしい
愛情が、湧いてくるんでしょうね。」
と、感慨を込めていました。

 仲間たちは、しばしこの話題に、
実の苦しみも忘れて、花を咲かせ
ました。

 及川氏らと同じ運命で一夜を明かした
敵兵は一夜明けると、一兵残らず救出され、
及川氏は、ぼーっと見ている間に、早業で
救出されたという印象が残りました。

 敵ながら羨ましいと思ったとしています。
一方で、日本軍は、潜水艦でも派遣すると
言った方法は取れないのだろうか、義憤に
かられたとしています。

(追記)
 鬼畜英米と言うのは、戦争をする上で、
敵軍を罵倒することを言うという、戦争では
よくある行為と言えます。

 しかし、日本軍は、一般兵に、敵に対する
憎しみしか与えず、正確な情報を与えて
いないということを、露呈しています。

 先の3人の殉職は、相手も立派な国家の
正規兵であり、降参することは恥だという
非常識なことを教えられていなければ、
しなかったはずであり、及川氏の
言うように先走った短気と言えます。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 敵魚雷艇とのやり取り [駆逐艦夕雲]

 敵の士官が何かを叫んでいるのを、
耳を澄まして聞いてみると、たどたどしい
日本語で、「コウサンセンカ」と言って
いるようでした。

 これを聞いた、及川氏の上司になる
北条大尉が、筏に上がり、敵の魚雷艇に
向かい、「馬鹿野郎。日本の軍隊に
降参はない。

 さあ、その機銃で、この胸を撃て。」と、
両拳を固く握りしめて、自分の胸板を
叩きながら、大声で叫びました。

 この壮言が敵に伝わることはなく、
降伏の勧告に応じたものと勘違いした
ようでした。

 甲板から綱梯子を垂れ下げ、手招きで
上がってこいと言ってきました。北条大尉が
応じるわけもなく、「馬鹿野郎。こんなもの
上って行けるか。」と怒鳴りながら、梯子を
甲板に投げ上げました。

 これを見た敵の兵士は、筏で休息している
重傷者のあまりの惨状に気づき、驚きました。
梯子を上がれる気力もないと勘違いしたのか、
1本のロープを下げ、「端を筏にしばれ」と
合図しました。

 北条大尉は応じず、「こんなものを縛ったら、
降参と同じだ。」と捨て台詞のように怒鳴り、
ロープを投げ返しました。

 ここで、敵も降伏を拒絶していることを
理解し、艇長が兵士たちとなにか話した後、
艇内から長いパン1本と水筒を1個筏に
投げ込むと、そのまま走り去って
いきました。

 及川氏は、敵の艇長の顔が、「元気に
がんばれよ。」と言いたげな無言の激励を
しているように感じられました。艇長に
従うように、他の魚雷艇も立ち去って
いきました。

 仲間たちは、真昼の夢のように、敵の
魚雷艇を呆然と見送っていました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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