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駆逐艦早潮 早潮への帰還 [駆逐艦早潮]

 陸軍の後送兵に出会った岡本氏は、
緊急時に、困った連中に出会った
ものだと、内心まごつきました。

 しかし、今は躊躇しているわけには
いかず、直ちに艇員に手伝ってもらい、
彼らを収容すると、帰路につきました。

 この頃になって、ようやく月が出始めた
ことで、辺りが明るくなってきました。同時に、
危険度も増してくることになります。敵機や
魚雷艇の姿が、岡本氏の脳裏に浮かびました。

 その時、前方に早潮の姿を確認しました。
岡本氏は、この時の嬉しさは、到底言葉に
表せないものがあったとしています。

 内火艇は、カッターを曳航しながら、
全速で沖合を目指して、突進して
いきました。

 一気に艦に近づくと、すでに到着していた
内火艇やカッターは、すでに収容準備が
できているようでした。

 上甲板一杯に、短艇の引き上げを待つ
兵員が鈴なりとなり、まるで登舷礼式
さながらに、岡本氏らの帰艦を
待ちあぐんでいました。

 艦橋でも、艦長以下、岡本氏らの帰艦を
じりじりと待っているに違いありません
でした。早潮は、前進微速で、除航を
始めていました。

 その中を、舷側にへばりついた、4隻の
ボートが、次々と短艇ダビットで、引き
上げられていきました。この時は、艦の側も、
ボートの側も必死の面持ちでした。

 早潮の行き足が、徐々に速まって
いきました。ようやく搭載艇が艦上に
おさまると、月が姿を表しました。

 その時、数機の敵機が姿を表し、
爆弾を次々と投下していきました。
一瞬、水煙が、早潮を覆いました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦早潮 異様な陸軍兵 [駆逐艦早潮]

 万事急がなくてはならないという岡本氏の
思いとは裏腹に、上陸する陸軍兵の動きは
機敏ではありませんでした。

 これから先、次の物資が供給されるのが
いつになるかわからない陸兵にとって、
現在身につけている携行品だけが
虎の子で、最後のものとなるかも
知れませんでした。

 そのため、陸軍兵の姿は、岡本氏には
異様に見えました。まるで雪だるまの
ごとくで、およそ身につけられる
可能性をためすがごとく、限度
ギリギリまで身にまとっていました。

 おかげで、その動作は、緩慢極まりない
有様でした。一刻を争う現在に、この動きは、
岡本氏の我慢の限界を超えてしまいました。

 岡本氏は、艇員に命じて、のろまの兵隊を、
片っ端から海に突き落とすという非情な命令を
発せざるをえませんでした。急がねばならない
岡本氏は、揚陸の終わった短艇から、順次、
帰艦するように命じました。

 他の短艇が沖合を目指すのを確認した
岡本氏は、自分が乗る内火艇に離岸を
命じました。その時、陸の方から呼んで
いる声が聞こえました。元気のない、
まるで蚊のなくような、かすれ声でした。

 岡本氏は気になり、陸地にもどり、
声のする方に向かいました。そこには、
5人ほどの陸軍兵が、銃を杖にして、
あやうげな足取りで、こちらにやって
くる姿が見えました。

 そして、「我々をあなたの軍艦に
連れて行ってください。」と、お願い
されました。

 異様な臭気と、やせ衰えた体躯から、
負傷兵か戦病患者と思われ、現地では
治療の方法もなしと、後送されてきた
兵隊たちだと判断しました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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