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駆逐艦夕雲 殉職者 [駆逐艦夕雲]

 敵から威嚇の機銃を受けた及川氏の
部下の蓮池兵曹は、突然、「敵が機銃を
撃ちながらでは、助かる見込みはない。
私はひと足先にゆきます。日本の方向は
どちらでしょうか。」と言い出しました。

 及川氏は、「馬鹿なことを言うな。
死ぬも生きるも、皆一緒と誓ったのを
忘れたのか。

 死ぬことはいつでもできる。早まって
短気を起こすな。肝っ玉を大きく持って、
最後まで様子を見ておれ。」と励まし
ました。

 しかし、彼は覚悟を決めていたらしく、
「弾丸に殺されるより、自分で死にます。
その前に、一度日本の方を拝んで死にたい
のですが、日本の方角はどちらでしょうか。」と
言いながら、あっという間に手を離して
泳ぎだしました。

 及川氏は、「引き返せ。皆と一緒に
ゆくんだから戻れ。」と叫びましたが、
決意は固く、筏から遠ざかって
いきました。

 制止はきかないと判断した及川氏は、
左手で、日本の方角を指し、「こちらが
日本の方角だ。」と叫びました。

 蓮池兵曹は、及川氏の指先の方向に
身体を向け、何事か叫んだ後、海中に
消えて、再び浮き上がってくることは
ありませんでした。

 及川氏が、蓮池兵曹のことを大声で
知らせると、「私も一緒に死にます。」と
言って、二人の仲間が、蓮池兵曹の後を
追って、沈んでいき、再び筏に戻ってくる
ことはありませんでした。

 瞬時にして、3人の仲間が、悲しくも
海底深く消えていきました。やるせない
惜別の情にかられているうちにも、
敵の魚雷艇は近づいてきました。

 そして、ブリッジに立っている先輩に
見える士官が、右手にメガホンを握って、
何かを叫んできました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 敵艇、近づいてくる [駆逐艦夕雲]

 敵の哨戒艇5隻が近づいてきて、
「欺瞞捕虜になって分捕りたいが、
5隻では無理。」というようなことを
言っていた仲間の言を、及川氏は、
力強く感じられたものの、蟷螂の斧と
いうものだと現実的な判断をしました。

 無為な抵抗はひかえ、静かに彼らの
やることを見守ろうと、艇の進航を
待ちました。

 彼らは、一面に浮遊物の流れる海面に
達すると、きわめてゆっくり巡回しながら、
あちこちで相当の生存者を引き上げて
いました。

 飛行艇に収容しきれなかった生存者を
収容するため、来ていました。日本軍に
遭遇したときのために、即時開戦できる
ように魚雷艇をよこし、多くの生存者を
救出していました。

 及川氏は、敵の損害も甚大だったことが
想像され、戦死した戦友たちも、この
道連れの多いことにほくそ笑んでいる
だろうと思われました。

 しかし、救助活動を静かに見守っていると、
3隻の艇首を、及川氏の筏の方に向けて
きました。

 1隻は、筏の周囲200mぐらいを、円を
描きながら徐航し、次の一隻は、筏から
50mぐらい離れて停止しました。
3人ほどの兵士が、自動銃を構えて
いました。

 残る1隻の魚雷艇は、筏に横付けする
態勢で、徐航で近づくと、甲板の兵士が、
腰だめの自動銃から30発ほどの威嚇弾を、
筏の周にばらまきながら、なにか叫んで
いました。

 及川氏は、敵が何を叫んでいるのかは、
銃声が大きく全く聞き取れませんでした。
この直後、及川氏の隣りにいた及川氏の
部下に当たる蓮池兵曹が、とんでもない
ことを言い出しました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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