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駆逐艦夕雲 転がり込んだ幸運 [駆逐艦夕雲]

 猛烈なスコールに見舞われ、及川氏は、
目指すボートは、はるかに遠ざかって
しまったと感じました。

 ボートの分捕りは、儚い夢とあきらめ、
いたずらに体力を消耗するより、スコールで
喉を潤し、体力を温存することを考えました。

 しばらくすると、海神の怒りのように
荒れていた海も静まり、白波も凪いで
スコールは通過しました。真っ黒な空に
星が見え始めました。

 筏にいしがみついていた人達は、一人も
脱落することなく頑張り抜きました。幸い、
スコールのおかげで、喉を潤すことが
できたので、何時間かは命も延びる
だろうと考えました。

 しかし、目指していたボートの行方は、
わからなくなりました。明日の夜明けを
待つしかありませんでした。

 筏にすがりついている人達は、夜明け
まで待つのは、最後の試練としてなんとか
なるものの、負傷であえいでいる人達は、
もう一晩頑張れるのか不安になりました。
なにか方法を考えないと危険だと
思われました。

 その時、突然、雷鳴が発生しました。
真昼のように照らされると同時に、轟く
ような大きな音が鳴り響きました。

 しかし、及川氏は、雷鳴で一瞬明るく
なった時に、筏の向いている方角200mほど
先に、目指していたボートの影を見つけて
いました。

 及川氏は、雷鳴に負けないような大声を
張り上げ、元気を出して筏を漕ぐように命令
しました。

半ば諦めかけていたボートが、スコールで
近づいたこの幸運を活かさない手は、
ありませんでした。

 及川氏らは、轟く雷鳴により見える
ボートの影に元気を取り戻し、ボート
目指して筏を漕いでいきました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 スコールが来る [駆逐艦夕雲]

 及川氏は、鈴木兵曹が戻らないことに対し、
「鈴木兵曹は、海岸育ちで猟師の経験も
あるので、ボートまで泳ぎつくに違いないと
判断しました。

 しかし、鈴木兵曹のみがボートについても、
どうにもならないと思い、戻ってきた二人の
代わりを出すことも考えましたが、海面は暗く
なっており、小波も立っていました。

 海で小波が立つのは、海上の急変を
示すものであり、代わりを出すのは、
あきらめました。そこで、筏を漕いで、
ボートにつけることにしました。

 相変わらず掛け声をあわせて漕いでいると、
小波が白波に変わり、風を呼ぶ気配さえも
感じられました。及川氏は、スコールが
来ると直感しました。

 空を見上げると、真っ黒い幕に覆われた
空は、星1つなく、頬をなでる風もひとしお
涼しくなってきました。スコールが来襲
するのは確実となりました。

 及川氏は、「スコールには突風がついて
くるから、みな筏にしっかりつかまって、
もぎ取られぬように注意しろ。」と叫び
ました。

 その後、風も勢いを増し、黒い空から
大粒の雨が3つ、5つ顔に当たりました。
次の瞬間、すごい大雨に見舞われました。

 風も強く、白波を横なぐりに顔に叩き
つけてきました。及川氏は、「しっかり
つかまって、手を離さないように。」と、
声を張り上げました。

 先行させた鈴木兵曹の無事を祈り
ながら、二人が戻ってきてくれたことに
安堵しました。そうしている間も、風雨は
猛威をふるってきました。

 この時のスコールは、まるでこの世の
終わりかと思うほどすごく、すがり
ついている筏も大海の小シバのように
翻弄されました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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