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駆逐艦夕雲 帰還 [駆逐艦夕雲]

 昨夜の8時頃から20時間ほどが経過し、
連続駆使されているこのエンジンは快調で、
規則的に吐き出す廃棄のリズムが、心臓の
鼓動に溶け込んでいるように感じられました。

 及川氏は、「再び生きて帰れたのは、
全てこのエンジンおおかげだ。命の恩人に、
心から感謝したい。」としています。

 1時間ほど走った頃、ショートランドの
湾口が見えてきました。入口両端の白浜
には、高いヤシの木が茂り、生け垣を
思わせました。中庭は、広い湾内でした。

 案内兵に、機雷に注意するように言われ、
真剣に見張りながら、中庭に入りました。
入口正面から左寄りに桟橋が見えました。
目指していたブイン桟橋でした。

 及川氏は、「桟橋が見える」と叫びました。
仲間達は、桟橋を確認し、抱き合って
喜んでいました。

 桟橋に近づくと、すでに連絡が入っている
ようで、参謀の姿も混じって見えました。
及川氏は、司令部の置かれている基地だけ
あって、おえらいさんもたくさん出迎えて
くださると感じました。

 桟橋に横付けして、つなぎ終えて桟橋を
上がると、司令官や幕僚幹部も大勢横隊に
立ち並んで、出迎えられていました。

 司令官の前に立った及川氏は、「夕雲
乗員、北条大尉以下27名敵の救助艇を
拿捕して、帰ってまいりました。」と
報告しました。

 司令官から、「よく帰ってきた。夕雲は
全員玉砕と聞いていた。敵のボートを
分捕って、帰ってきたとは、よくやって
くれた。ご苦労。」と労われました。

 司令官の挙手の答礼の目には、大きな
真珠の玉が光っていました。

 及川氏は、無事帰還を果たし、
任務を完了させました。及川氏の
著書はここで完了しています。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 生還の感激と・・ [駆逐艦夕雲]

 出発しようとした直後、これまで終始
頑張っていた佐久間兵曹が、容態が
急変し戦死しました。

 左の胸に穴が2つも空いており、
重傷者の中でも特にひどい状態
でしたので、注意しながら
見守っていました。

 しかし、張り詰めていた心が急に
緩んだことで、負傷に敗れ、精魂
尽きてしまったようでした。

 「もうすぐ軍医のところに行けると
いうのに、運がない。味方の陣地に
着いて、歓待されて満足して逝かれ
たんだから、不幸中の幸いかも
知れない。」と惜別の言葉が
送られました。

 全員打ち揃って、生還すると励まし
合いながら、血をしぼる苦闘に打ち
勝ってきたのに、ついに一人
先立ってしまいました。

 ボートの中央に安置し、砲台兵に、
「武運長久を祈ります」と挨拶を交わし、
ボートは発進しました。

 樹上に小屋を発見してから、再び
発進するまでの僅かの間に、生還の
感激と、生死を誓った戦友の散華の
悲嘆と、悲喜こもごもの涙がありました。

 ボートは、砲台を離れていき、手を
振って、見送る砲台兵も、見送られる
27名もただ涙でした。

 ボートは相変わらず快調に進んでいき、
水先案内人も得た及川氏は安心し、
エンジン音もひときわ爽やかに
聞こえてきました。

 仲間たちは、これまで全く見られなかった
明るさで、語り合っていました。つい数日前の
不吉な予感だけが頭に充満していた暗い顔
ばかりだったのが、今は、つらさも、苦しさも
痛さも、遠い過去の思い出のように
忘れ去って見えました。

 みな、砲台兵のもてなしに、心から感謝の
気持ちを語り合っていました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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