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駆逐艦夕雲 闇に閉ざされたソロモン海 [駆逐艦夕雲]

 夕雲がこの様になったのは、2日前の
10月4日に、ベララベラ島に残る
700余名の友軍救出と、転進作戦
援護の任務を受けたことに始まります。

 基地ラバウルを抜錨した水雷戦隊は、
ガダルカナル島周辺の、敵機動部隊を
洋上に誘って挑戦し、その間に乗じ、
味方船隊がベララベラ島に接岸、友軍
救助の作戦を進展し、目的を遺憾なく
達成しました。

 しかし、この作戦で、後に大本営は、
「駆逐艦1隻失えり。」という、この当時と
しては珍しく正確な報道をしていました。
この駆逐艦こそ、夕雲ということになります。

 及川氏を始め、夕雲の乗員は誰ひとりとして、
このような犠牲の該当艦になるとは、夢想だに
していませんでした。

 夕雲は、母港の横須賀を出撃し、キスカ、
ニューギニア、ソロモンと太平洋狭しと
転戦し、幾度か敵胆をからしめ、武勲を
あげました。

 その名を顕揚し続けた夕雲の勇姿も、
ついにこのソロモン海の一角で、
むなしく海底の藻屑と消え去り
ました。

 今だに信じきれず、夢のようでしたが、
現実でした。及川氏は、夕雲が撃沈された
ことで、闇に閉ざされたソロモン海の
真っただ中を、あてもなく泳ぎ続けて
いました。

 及川氏は、「生き抜かなければ
ならない。死んでたまるか。」と
決意し、生き残る方法を模索
しました。

 そして、生き残るには、体力を保たせる
ことだと考え、夜が明けるまで静かに浮いて、
努めて体力を保たせることにしました。

 体力を消耗することは、死を促すことに
なると、結論づけました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 炎の海から脱出 [駆逐艦夕雲]

 海中で、「死んでなるものか。」と誓った
及川氏ですが、頭上は、真っ赤な炎に
覆われており、浮上することは
できませんでした。

 すると、8mほど先に暗く見える箇所が
ありました。そこで泳ぐことを決意した
及川氏は、自分を励ましながら、夢中で
水をかきました。

 頭上が暗くなって来たところまで泳ぎ、
海面に顔を出しました。3回ほど深呼吸し、
改めて後ろを見ると、一面火の海となって
いました。

 その燃えさかる火の海面に、大きな
飛沫をあげながら泳ぎ狂っている
数人の姿が見えました。

 しかし、その水しぶきも消えて、最後は
波紋のみが残りました。苦しさに耐え
かねて火の海に顔を出し、炎に
なめられたようでした。

 沈んでいく戦友の断末魔を見た及川氏は、
もうひと頑張りすれば、助かるものをと
思いましたが、救助の術はありません
でした。

 及川氏自身、海底に吸い込まれないように、
懸命に泳ぎ続けており、何もできないのが
現状でした。それでも、目前で戦友たちが、
炎にもだえ続けている姿は、哀れさがこみ
あげてきました。

 しばらくすると、生き地獄にも似た悲惨な
絵巻を繰り広げていたこの情景も、残油が
燃え尽きることによって、再び墨を溶かした
ような暗闇の世界に戻り、自分の手で
かいている水の音のみが、残りました。

 280余名の乗員ことごとくが、天下無敵の
堡塁と信じ、日夜、洋上を東奔西走し、幾多の
武勲を重ねてきた駆逐艦夕雲も、ついに、
ソロモン海底深く葬り去られました。

 1943年10月6日午後9時15分でした。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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