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駆逐艦夕雲 漂流グループ [駆逐艦夕雲]

 二人になり、話に夢中になっていると、
また闇の中から水をかく音が聞こえました。

 及川氏は、「だれか」と叫ぶと、また
返事がありました。こちらに来るように
促すことで、3人になりました。その後、
次第に人が増えていき、いつの間にか
15人ほどのグループになりました。

 こうなると、一人で漂流していた時の
ような孤独感はなくなり、奇蹟的に
玉砕の網の目から逃れて、生き
抜いてきた僥倖の体験座談会の
ようになりました。

 生き残った仲間の奇蹟談は、闇の中を
漂流しながらにぎやかにつづられ、なかなか
尽きそうにありませんでした。

 及川氏は、この軌跡のグループに、
自分の上司である機関長の北条大尉が
いることに気づきました。及川氏は、
機関長に大丈夫か尋ねました。

 機関長は、かすり傷一つないが、重油が
目に入り痛くてたまらないという返事でした。

 すると、「軍医長もいるようだが、どうかね」
という声が聞こえました。及川氏は、軍医長が
いることに始めて気づきました。軍医長は、
相当な深傷を追っているようでした。

 朝になれば、救助もきてくれるだろうから、
それまで元気で頑張らなければならんと
励まし合いました。この声が届いたのか、
近くにいた戦友も次々の泳いできて、
集まりました。

 最終的に20人ほどの一団となりました。
しかしながら、ここに集まった人達の大半は、
傷を負っていました。

 けが人は休ませる必要があります。及川氏は、
生き残った人は、命綱として大小様々な木片を
持っていることに目をつけ、けが人を休息させる
一つの案が浮かびました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 漂流 [駆逐艦夕雲]

 体力を温存すると決めた及川氏は、
先輩から聞いた、「海に落ちたら服は
絶対に脱ぐな」と言われたことを
思い出し、脱がないことにしました。

 先輩の言は、体温の急冷を防ぐ
ということで、合理的と言えます。

 そして、自力で浮力を維持するために、
最低限に手足を動かすことにしました。
及川氏は、2~3昼夜浮いていられる
くらいの動きに抑えることで、生き残る
自信も湧いてきました。

 まずは夜明けを待つことにしました。
しかし、最初の難関である睡魔が襲って
きました。眠ってはいかんと自分を叱り
つけ、何らかの考えをしようと思いました。

 ただ、夕雲のことを考えても、再び
夕雲が浮かび上がってくることは
ないので、別のことを考えることに
しました。

 天を仰ぐと、幾百万の星がキラキラ
輝いていました。この満天の空を見た時、
一人で漂流しているということに改めて
気づきました。

 夕雲250余名の乗員で、生き残ったのは
自分ひとりということはないだろうと思いました。
辺りには人影はなく、仲間は僚艦に助けられ、
一人で迷子になったのではないかと不安に
なりました。

 しかし、夕雲が沈んだとき、万歳という声が
あちこちから聞こえており、その後、僚艦が
来た気配はないので、どこかに泳いでいると
信じることにしました。

 すると、ぽちゃりという水をかく音がしました。
誰かが一人で泳いでいるようでした。及川氏は、
「だれか」と叫んでみました。すると返事が
ありました。

 及川氏は、自分も声の方に近づきながら、
こちらに来るように促しました。両方から
近づき合い、二人になると、互いに喜び
合いました。

 そして、夕雲がやられる直前からの話が、
果てしなく続きました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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