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駆逐艦夕雲 ブイン目指して [駆逐艦夕雲]

 及川氏らは、さらにボート内を捜索
しました。すると、救急薬らしい箱と、
中身不明の筒が3本発見できました。

 箱を開けてみると、薬の臭いがしました。
間違いなく救急薬でしたが、これも、
暗い中では何の薬かわからず、
使えそうもありませんでした。

 負傷者の大半は了解したものの、一部の
人は、早く薬を塗ってくれと駄々をこねる
人もいました。

 筒の方は、振ると音がするものの、
何かはわからず、翌朝まで待つことに
しました。

 その時、鈴木兵曹が、エンジン室の計器盤に
豆電球があるのを発見しました。スイッチが
あるはずだと探してみると、途中で切断
されており、使えませんでした。

 そこで、バッテリーに直接つなぐことに
しました。電線をバッテリーの端子の
あちこちに接していると、ぱっと
電灯がともりました。

 遠くから眺める灯台のように可愛らしい
豆電球が、闇のボートを照らしていました。
早速、コンパスを置いてみると、ブインの
方角でした。

 及川氏の当初の計算通り、ブインの方向に
進んでいることをコンパスが立証してくれ、
悲願も確実に達成できると、感じました。

 悲運のどん底から這い上がり、再び生きて
帰れる幸運が、手に入りました。助かると
実感した及川氏は、なつかしのブインの
港や、桟橋、椰子の木陰に点在する
基地兵舎の面影が、走馬灯のように
目に浮かんできました。

 同時に、司令部を始め、多くの戦友たちも、
夕雲生存者28名が、敵のボートを分捕って、
生還したという報告を聞いた時、どんなに
驚くだろうと思いました。

 及川氏は、一刻も早くブインに着くことのみを
考えていました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 ボート内の捜索 [駆逐艦夕雲]

 しばらく、闇の中を走っていると、艇内は
不気味なほど静まり返っていました。

 及川氏は、一人の乗員に艇内を見回って
もらいました。命じられた乗員は、
「大丈夫か」と、声をかけながら、
仲間を見舞っていました。

 艇内を一巡すると、及川氏のところに戻って
きて、「艇内は別に変わったことはありませんが、
明日まで保ちそうもない人もいるようです。」
という報告をしてきました。

 及川氏は、悲しみがこみ上げてきましたが、
為す術はありませんでした。及川氏は、
「頑張り抜けば、明日には基地について、
傷の治療もできる。

 食料も水も十分にあるので、生きられる。
痛い辛いも今のうちだけだ。元気を出して
頑張り抜くんだ。」と何度も繰り返す
ことしかできませんでした。

 及川氏の呼びかけに、艇内の仲間たちは、
微動だにせず、沈黙したまま、活気ある
応答は、何一つありませんでした。

 日中、焦げ付く炎熱に、喉も渇き切って
いながら、一滴の水もない。食料は、
昼過ぎに敵が恵んでくれた、パン
ひとかけらのみでした。

 ここで及川氏は、このボートは救助艇で
あり、応急薬などが積まれているのでは
ないかと気づきました。

 乗員一人を呼んで、このことを話すと、
賛意を示してくれました。鈴木兵曹も賛成し、
3人で探すことにしました。

 すると後部を探していた乗員から、
「コンパスがありました。」という報告が
ありました。ありがたいと思ったものの、
この暗闇では、指度は見えず、夜が
明けなければ使うことはできなさそう
でした。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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