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駆逐艦夕雲 もてなし [駆逐艦夕雲]

 カヌーで及川氏のボートまで漕いできた
男から、「夕雲は全員玉砕と聞いていた。
それが、ボートを分捕って、帰られたとは、
よかったですね。」と言われ、水の他に、
タバコやバナナ、釣った黒鯛の刺し身などを
持ってきてくれました。

 カヌーから手を指しのべるその目には、
涙さえ浮かべていました。受け取る
及川氏らも、万感の涙を浮かべ
ました。

 カヌーから来た人達は、艇内の重傷者を
見て、「よくここまで帰ってこられましたね」と、
拳で頬を拭っていました。

 及川氏は、半数は重傷者なので、応急
治療をしていただきたいと申し出ました。
しかし、ここには軍医はいないので、
ここから2時間くらい行ったところにある
ブインまで回航してくださいということでした。

 武装した1名がボートの移乗し、ブインまで
案内してくれるということになりました。そして、
一刻も早く出発するように、急き立ててきました。

 ちょっと前まで、砲台により28個の肉塊が
すっ飛ぶ場面を想像していましたが、味方
砲台の手厚いもてなしに涙を浮かべ、
ごちそうとも言えるバナナや刺し身を、
皆で分け合って、舌鼓を打ちました。

 予想もしていなかった、味方兵のもてなしに、
仲間たちは、気力が蘇り、司令部桟橋に向けて
発進することにしました。

 砲台員にお礼の言葉を述べると、
「武運長久をお祈りしています」と、
別れの挨拶を返してくれました。

 しかし、ここでエンジンを起動した直後、
突然、仲間たちに事故が発生しました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 砲台に狙われる [駆逐艦夕雲]

 砲台と見張り台を発見した及川氏は、
これが敵のものか、味方のものか判断が
つきませんでした。

 敵は、日本占領地に潜り込んで、軍に
奇襲し、戦果を上げる小部隊があり、
ブーゲンビル島にも上陸している
という情報を聞いていました。

 見張り所の位置からすると、砲台から
1kmくらいのこのボートが発見されて
いないわけはありませんでした。

 虎口に飛び込んだ、うさぎの如くで、
逃げることはできませんでした。今
乗っているボートは、敵軍のもの
なので、敵のものならば、かなり
近くまで接近できそうでした。

 一方、日本軍のものだと、敵と間違え
られる懸念がありました。今すべきは、
抵抗する意志がないことを知らせる
ことだと、考えました。

 及川氏は、艇首に立って両手を広げ、
大声を張り上げながら、徐航で砲台へと
近づいていきました。

 しかし、人影は全くなく、静寂でした。
逆に、嵐の前の静けさを思わせ、気を引き
締めました。そのまま海岸から100m
ほどまで近づきました。

 さらに呼びかけを続けると、砲台付近
から、一人の男が飛び出してきました。
越中ふんどし一つの裸の姿から、
日本兵だと直感しました。

 水際に立ち止まった男は、及川氏の
呼びかけに応答してきました。及川氏は、
状況を説明し、水を飲ましてほしいという
要望を出しました。

 男はわかったと、返事すると、ジャングルの
中に消えていきました。3分ほど経った
ところで、ジャングルから7名ほどの
兵士が、隠蔽してあるカヌーを引き
出して、海上に浮かべると、慣れた
手付きで、ボート目掛けて漕いできました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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