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駆逐艦夕雲 怪我人の容態 [駆逐艦夕雲]

 筏を補強したものの、全員が乗れる
状態ではないので、立ち泳ぎ組が
交代で、少数ずつ筏の上で休息
しながら、全力の徒費を節減する
ことにしました。

 及川氏は、筏に上がったときに、
怪我人を見舞いましたが、そこには、
想像を遥かに超える深い傷を負って
いる者がおり、よくぞこれまで頑張り
抜いてこられたものと驚かされました。

 内臓がはみ出しそうになっている
腹の傷口を、左手で押さえながら、
頑張っている軍医長。

 左の胸に穴2つぱっくりあけたままの
佐久間兵曹。太股に両拳が入るくらいの
肉をえぐり取られた穴が空いている
内海兵曹など。

 片足を喪失した若林兵曹は、傷口を
熟したザクロのように、紫色に変えて
いましたが、本人は、相変わらず、
剛毅な精神力に物言わせて、
そばの負傷者を、励まして
いました。

 全て、目を覆うばかりのすごい様相であり、
これらは皆、戦争が残してゆく地獄絵でした。
及川氏は、人間が人間を殺し合う戦争、
これが、最高の文明の中に生きる権利を
持つ人間が、負わなければならない
宿命なのだろうかとしています。


 水平線を離れた太陽は、鏡のような
海面に、ギラギラと暑い光を降り注ぎ
ながら、静かに昇っていきました。

 筏の上に休息する重傷者も、筏の
周囲につまって立ち泳ぎしている
者も、一様に暑い暑いの連発でした。

 重油をかぶった真っ黒な顔、首、
腕に照りつける直射日光は、
ジリジリと容赦なく
焼き付けてきました。

 頭、腕、首筋もたまらなく痛み、
ことに目に染み込んでいる重油に
さし込む光線で、仲間たちは
盲人のように目を閉じて、
痛いとうめいていました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 筏の補強 [駆逐艦夕雲]

 間もなく朝になる頃、及川氏は、乗員に
呼びかけを行いました。

 「もうしばらくの辛抱だ。明るくなれば、
味方が救助に来てくれると思うから、みな
元気で頑張っておれよ。

 味方の艦が見えたら、さっそく位置を
知らせるんだ。その方法は、皆で、大声で
呼びながら、片手で水しぶきをあげるんだ。

 それが俺たちの位置を知らせる信号だ。
皆、元気にそれをやってくれ。」というもので、
皆、元気に、「分かりました」と答えてくれ
ました。

 千秋の思いで、待ち焦がれていた朝が
やってきました。鏡のようにないでいる
海面に、おびただしい浮遊物が漂い、
昨夜の海戦の激烈さを物語って
いました。

 及川氏は、夕雲一隻で、これだけの
おびただしい浮遊物があるのだろうかと、
不審になりました。(夕雲が撃沈した、
第二次ベララベラ海戦の際、夕雲以外に、
アメリカの駆逐艦も一隻撃沈しており、
その分の浮遊物もあります。)

 すっかり夜が明け、油を流したように
凪いでいるソロモンの海は、洋々と広がり、
視界には、救助艦はおろか、島影も
見えませんでした。

 及川氏は、焦っても仕方ないと考え、
浮遊物で筏を補強することにしました。
皆に相談しようと周りを見て驚きました。

 遭難時、重油の中を泳いでいたので、
皆真っ黒になっており、顔の識別が
できませんでした。

 この悲惨な仲間たちも、筏の補強には
賛成してくれて、辺りの浮遊物を
物色していました。

 近くの木材を集めて筏を補強すると、
浮力は大幅に上昇しましたが、まだ
全員が乗ることはできませんでした。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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