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駆逐艦夕雲 後ろ髪を引かれる哀愁 [駆逐艦夕雲]

 長さ12m、幅2m半のボートには、
28人の濡れ鼠の仲間で超満員に
なりました。

 ここで、一旦海上捜索は打ち切り、
急いで危険水域の脱出を図ることに
しました。背後に敵の緊迫を感じながら、
発進の準備に取り掛かりました。

 及川氏は、自ら艇長をすることにし、舵と
機械要員を2名ずつ配置し、発進の準備を
完了させました。

 帰還先をブーゲンビル島のブインと定め
ました。ここは、最前線基地で、軍医も
常駐していました。問題は、暗闇で
ブインの方角がわからないことでした。

 スコールの影響か、空は黒雲に覆われ、
星も見えない状態でした。しばらく見上げて
いると、薄明かりが漏れ始めました。目を
こらしてみていると、南十字星が見えました。

 これで方角がわかった及川氏は、ブインの
方角を割り出し、ブイン目指してボートを
進めました。これで、28名の乗員は、再び
祖国を踏むことができそうでした。

 しかし、及川氏は、後ろ髪を引かれる哀愁を
感じていました。闇に包まれている艇尾には、
共に語り合った夕雲の250余名の戦友が、
武運つたなく護国の錨と変わり、海底深く
眠っていました。

 ボートは、暗い海面一杯に、エンジン音を
なびかせ、進航を続けていました。乗員の
悲願を達成するのは、エンジン次第でした。
エンジンの好、不調が、直ちに及川氏らの
運命を左右することになります。

 及川氏は、巡航速度(一定燃料で、最も
長距離を航走する速度)で航走し、燃料の
節約と、エンジンの延命を心がけてもらう
ことにしました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦夕雲 救助活動 [駆逐艦夕雲]

 暗闇の中、不慣れな敵のエンジンの機動に
成功し、味方基地を求めて敵の制海域を
脱出するという奇蹟と僥倖に恵まれました。

 これも、亡き夕雲の戦友たちの霊が、
我々を導いて、かつ、守護してくださったと
思いました。この恩に報いるためにも、生きて
帰らなければならないと、改めて思いました。

 そして長居は無用なので、早速発進する
ことにしました。クラッチを入れると、体が
取り残されるようなショックを感じて、
ボートは走り出しました。

 快調なエンジン音が、闇の海面に響き
渡っていきました。これで帰還できる目処が
たったと考えたところで、この海域には、まだ
戦友たちが漂流していると思われるので、
救助できるものは救助しようと話し合い、
衆議が一致しました。

 面舵前回を命じ、ボートは右へ大きな弧を
描いて走っていきました。スコールの風は
やんでいましたが、うねりはまだ高い状態
でした。及川氏は、仲間に呼びかけるように、
大声を張り上げて、呼び続けました。

 敵の哨戒艇がいることを懸念して、捜索は
1周と決め、闇の海面に呼びかけました。
すると、波間から返事がしました。

 声の方に舵を向けて近づくと、4人が
励まし合いながら丸太にすがりついて
いました。4人共、極限まで疲れ切って
いるようで、ボートに引き上げると、余力も
尽きたのか、打ち伏して微動だにしません
でした。

 まだ、いるだろうと思い、さらに右に旋回
すると、応答がありました。近づくと、さらに
3人の戦友が、木片にすがりついていました。

 ボートに引き上げると、そのまま崩れる
ように甲板に打ち伏して、口をきくことも
しませんでした。口を開く気力もないほど
消耗しているようでした。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早霜」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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