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駆逐艦早潮 火災 [駆逐艦早潮]

 爆弾が命中すると、その後に起こるのは
火災でした。

 しかも、今回命中した場所は、士官室と
兵員室を挟んで、一番砲塔の使用する
火薬庫がありました。発生した火災は、
艦橋を包み込み、両舷に広がって
いました。

 艦橋の陰でわかりにくいものの、弾薬庫に
火災がせまりつつあるのは確実でした。
早潮は、最初の至近弾で、左舷機が
使用不能となりながら、まだ必死の
運転で航走していましたが、風に
煽られ、休息に火の手が回りました。

 このような状況で、応急作業の指揮を
とるのは、掌水雷長か、掌砲術長の
岡本氏でした。

 本来、艦の前部は、掌水雷長、艦の
後部は掌砲術長となっていましたが、
掌水雷長が倒れてしまった以上、
岡本氏が、やるしかありません
でした。

 機銃射撃の指揮は放棄し、火災の消火に
当たるべく、作業員を集合させました。
その時、右舷の通路に山積みとなって
いた陸戦隊の野砲の弾薬が誘爆し、
弾丸が次々と炸裂して、当たりに
弾片が飛び散りました。

 中には、上甲板を突き破って、上空で花火の
ように炸裂するものもありました。もはや
こうなっては、危険で近寄ることもできず、
手を下すには、万策尽きたといえました。

 それでも、岡本氏は、懸命に消火に努め
ましたが、火の勢いは一向に衰えることは
ありませんでした。左舷の火災も、炊事場に
燃え移り、紅蓮の炎が勢いよく吹き出して
いました。

 排水量2500tの駆逐艦早潮艦上は、
今、まさに生き地獄が現出しつつあり、
暗黒の夜の海の上にあって、それが
いっそう凄惨さを加えていきました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦早潮 最大の悪魔 [駆逐艦早潮]

 掌水雷長が、「魚雷を頼む」という
絶叫をした瞬間、急に稲妻をうけたように
周囲が明るくなりました。そして、大音響と
振動が、早潮を揺り動かし、岡本氏は、
鞠のように転倒しました。

 何事か分からない状況で、身を起こした
岡本氏は、掌水雷長を煙突と前部水雷
発射管の間にひきづり込み、近くの
発射管に飛び込みました。

 そして、大声で、「魚雷放棄処分」を、
発射管員に下命しました。早潮が
積んでいる魚雷は、日本軍が誇る
61cm九三式酸素魚雷で、一発
命中すれば、巨艦も轟沈する威力を
持っています。

 しかし、いまは、早潮にとって、最大の
悪魔と化していました。主砲が沈黙している
早潮に、敵機は、とどめを刺すべく猛攻を
加えてくるのは確実でした。

 一弾が、早潮に積まれた16本の酸素魚雷の
一本に命中すれば、人も艦も木っ端微塵に
飛び散って、海底の藻屑となります。

 掌水雷長が、「魚雷を頼む」という絶叫
しなければならない状況は、刻一刻と
現実としてせまってきつつありました。

 しかし、魚雷発射管内部も、悲惨な
状況でした。狭い魚雷発射管室は、
戦死傷者で埋まっていました。

 魚雷放棄作業は、乗員の誰でも
出来る作業ではなく、水雷科員しか
手をかけることができないものでした。

 岡本氏は、非情ではあるものの、
早潮の危機であることから、
血みどろの水雷科員に情け
容赦なく、処分を下命するしか
ありませんでした。

 魚雷発射管室を出た岡本氏は、先程の
大音響の原因である爆弾が、艦橋と
一番砲塔の中間付近に命中して
状況が一変しているのを
見ることになりました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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