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駆逐艦早潮 総員退去 [駆逐艦早潮]

 岡本氏が万事休すと考えていた時、
「総員退去」の号令がありました。

 最後の号令が下ってのち、配置を捨てた
兵隊たちが次第に中部甲板に集まって
きました。

 岡本氏は、本来使用するはずだった
内火艇とカッターを確認しました。右舷に
あった第一内火艇のみ無事でした。

 岡本氏は、分隊員に命じて、第一内火艇を
水際まで降ろさせました。そして、そばにいた
水兵に手伝わせ、瀕死の重傷を負った
掌水雷長を運んできました。内火艇は、
負傷者だけでいっぱいになりました。

 間もなく艦長がやってきました。頭部には、
包帯が巻かれ、まるで意志を失った人のように
見えました。艦長は無言のまま、燃え上がる
火災ごしに、艦橋の方をじっと見つめ、
いっこうに退去しませんでした。

 先任将校に促された艦長が内火艇に移乗し、
それを最後に内火艇は、早潮の舷側を離れて
いきました。

 艦長が退艦すると、岡本氏は、急ぎ
後甲板に走りました。途中で2mほどの
板切れと、機関科員が脱ぎ捨てた煙管服を
拾うと、暗い海に飛び込んでいきました。

 一刻も早く艦から遠ざからねばならない。
そう思った時に、近くに掌機長が泳いで
いました。掌機長が持っていた板は小さく、
岡本氏は、自分の板に捕まるように
うながしました。

 二人で泳いでいましたが、掌機長の
泳ぎ方がおかしいことに気づき尋ねると、
腰を負傷して、思うように動かないと
いうことでした。

 岡本氏は、この時になって、本当に
救助されるのかという疑問が湧いて
きました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦早潮 進まない消火活動 [駆逐艦早潮]

 火災が、磨き上げられた魚雷の頭部を、
あたかもなめまわすごとく、襲いかかって
きました。

 鮮血で、朱に染まった甲板上には、
戦死者の屍、腕、脚が散乱し、重傷者が
のたうち回って苦悶していました。

 岡本氏は、是が非でもこの火災だけは
消火しなければと、焦っていました。
岡本氏は、声を上げて作業員の兵隊を
呼ぶものの、応ずる者は極めて少ない
状況でした。

 それは当然で、まだ戦闘は続いており、
それぞれの持場で勤務しているはずでした。
戦闘配置は、艦橋からの指示がなければ
解除されない上、戦闘配置から離れている
主計科も、今は負傷者の収容や看護に
回されている可能性がありました。

 早潮には、戦闘時に配置かない陸戦隊が
多数いるはずですが、その者たちも、岡本氏の
呼びかけに応じてくれないので、お手上げと
いった状態でした。

 そこで、岡本氏は、艦橋から消火の指令が
出されないことに不思議な思いをしました。
海水ポンプは、暗闇と陸戦隊の諸物資の
混乱とで、どこにあるかわからない。

 おまけに、炊事場の近くにある移動ポンプは、
火の勢いが強く手を付けられませんでした。
この間も、敵機からの猛烈な機銃射撃は、
やみませんでした。

 このような中で、唯一健在の第一機銃台は、
岡本氏が指揮しなくても、対空射撃を
続行していました。

 この射撃で、敵機にどれだけ損害を
与えられたのかは不明ですが、孤軍奮闘し、
用意に敵機を近寄らせなかった功績は
極めて大きいとしています。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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