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駆逐艦早潮 勇士の久遠の墓標 [駆逐艦早潮]

 鋼鉄の棺と化した早潮には、岡本氏の
上司である砲術長以下、数十名に及ぶ
戦士の遺体が納められていました。

 「たとえ海底に埋没するとも、これら
勇士の久遠の墓標として、海軍戦史の
一頁を飾れ。」と願わずには、いられま
せんでした。

 岡本氏は、生きながらえ、すえは老廃艦と
なり、一片のくず鉄と化するよりは、軍船として
本懐を遂げるのも、これに勝ることなし、
もって冥すべきであろうとしています。

 岡本氏は、何度の早潮の方に振り
返りながら、片手を上げて、還らざる
勇士と早潮に最期の訣別を
告げました。


 しばらくすると、前方から軍歌が水面を
流れて、伝わってきました。それに和して
皆が歌いだしました。その歌は、怒鳴って
いるという方が近いものでしたが、
勇気づけられ、元気が出てきました。

 岡本氏は、一寸先もわからない闇の中で、
自分たちの運命を前にして、よくこんな
大胆な芸当ができたものだと感心しました。

 皆が、声高らかに歌うことで、士気が
鼓舞され、僚艦にも伝わり容易に救助
してもらえるいいアイデアだと思った
としています。

(追記)
 早潮の最後は、午後10時35分、船体に
大震動あり、駆逐艦白露の弔砲によりて、
撃沈されたとなっています。沈没地点は、
目的地のラエまで、あと27海里の位置
だったとされています。

 陽炎型駆逐艦で唯一、大戦を生き
残った8番艦雪風は、岡本氏のいう、
「すえは老廃艦・・・」の運命をたどる
ことになったと言えます。

 戦場で散った早潮と、残った雪風の
どちらが良かったとは一概には判断
できないと言えます。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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駆逐艦早潮 最期の一瞬 [駆逐艦早潮]

 岡本氏は、我々は救助されるのかという
疑問が湧いてきました。

 岡本氏は、日本海の荒海で泳ぎを覚え
育った海の子で、泳ぎには自信がありました。
しかし、終着点のない上に、救助のあてもない
という状況では、話は違ってきました。

 今は、鼻をつままれてもわからいほど暗く、
サメいる魔の海に投げ出され、陸地が
どちらかも見当がつかない状態でした。

 しかも、まだ戦闘は続いており、僚艦に
救助されない限り、助かる方法がありません
でした。

 岡本氏は、これまでの通例からすると、
遭難者が救助されないケースが圧倒的に
多いことを知っていました。こうなると、
開き直るしかないというのが、現実
でした。

 周りにいる早潮乗員は、みんなが
泳いでいるところまで泳ぎ着こう、
死ならばもろともだという一念で、
懸命に足をかいていました。

 しばらくして岡本氏は、気を取り直して、
早潮と艦上に残された人々に最後の
別れをつげるべく、後方を振り返り
ました。

 早潮は、いぜんとして燃え上がっており、
暗黒の海上にその一点だけが明るく大きな
火柱が、立ち上ろうとしていました。

 早潮、最期の一瞬でした。

 早潮は、1937年9月に、国際情勢の危局に
際して、計画起工された陽炎型19隻の内1隻
でした。

 日本海軍最精鋭駆逐艦と称され、大戦勃発と
同時に、早潮の名前のごとく所狭しと、敵を
求めて無尽に駆け巡りました。

 幾多の戦功をたてた早潮もここにいたり、
ついに栄光の幕を閉じ、生涯を終わらんと
していました。まさに感無量でした。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
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