SSブログ

駆逐艦早潮 昨夜の戦闘 [駆逐艦早潮]

 岡本氏は、温室のように温かい後部士官室で、
耳をふさいで、体を丸めて、横になりました。
そして、いつのまにか眠りについていました。

 しばらくして、推進機の音で目がさめた
岡本氏は、当たりが不気味なほど静かで
あることに気づきました。

 艦は高速で動いていることは分かるものの、
艦内は静まり返っていました。しばらくすると、
「総員起床」の号令がありました。

 脳裏に昨夜の出来事が次々と浮かんでいた
岡本氏は、掌水雷長の花本少尉の安否が
気になりました。

 艦橋で確認したところ、早潮の内火艇は、
白露には収容していないということでした。
同時に、今回の増援活動は中止となり、
艦隊はラバウルに帰還中ということでした。

 朝食が終わり、衣服の貸与を受けた
岡本氏は、さっぱりした気分になり、
ラバウル入港までやることもないので、
昨夜の戦闘を、振り返ることにしました。

 最初に浮かんだのは、対空戦闘が
始まる前に、なぜあんな悲惨な状態に
なったかでした。

 おそらく早潮は、見張りが困難な
左舷後方より一挙に来襲し、数発の
至近弾を投下したと思われます。

 この不意打ちで、艦橋がやられ、
主砲や左舷機が故障したと思われ
ます。

 岡本氏は、この時後部士官室に
いましたが、「戦闘」も「配置につけ」の
ブザーはもちろん、発砲音を聞いて
いませんでした。

 これらを発する間もないほどの
不意打ちを食らったと言えます。

 二日前まで、早潮は、ガダルカナルで、
苛烈な戦闘を繰り広げながら、無傷で
戦い抜いた歴戦の猛者であり、不意打ちを
食らったというのは、あまりに残念であると
同時に深く反省する必要があるとしています。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
nice!(0)  コメント(0) 

駆逐艦早潮 恐怖心 [駆逐艦早潮]

 岡本氏は、物音に怯え、艦が発砲する
衝撃と砲声にも怖がるようになり、ついに
恐怖心に変わっていきました。

 岡本氏自身どうしていいかわからず、
頭を抱え込んで、恐怖におののいて
いました。

 その時、もうひとりの心の中の自分が、
「こんなことでどうする。貴様は帝国
海軍の軍人ではないか。」と叱り
つけてきました。

 岡本氏は、腹に力を込め、頭を上げて、
落ち着いたことを感じました。不思議な
心の変化でした。

 岡本氏は、ひととき前まで、早潮で
凄惨な修羅場におのれを忘れて
戦った後、暗黒の海に放り出され、
平気で泳いでた自分が、今になって
どうして恐怖心にとりつかれたのかと
思案しました。

 これは、早潮の時は、職務を果たすという、
張り切った心、すなわち責任感が他の
すべてを忘れさせていたからだろう
としています。

 しかし、白露では、自分の職務はなく、
ただの便乗者になっていました。そうした
心のすきに、生に対する執着から、恐怖心が
湧いてきたのだろうとしています。

 同時に、早潮の消火活動を呼びかけた時、
職務がない陸戦隊が一人として消火作業に
当たってくれなかった理由について、
理解しました。

 同じ便乗者という立場になると、職務が
ないことが恐怖につながり、とっさに
危険から遠ざかるような行動をした
ということでした。

 そう考えると、この場所は、音は
うるさくても、熱気が伝わってくるので
温かい温室にいるような感じであり、
海で冷えた体を温めるには最高の
場所だと、改めて気づきました。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。