SSブログ

駆逐艦神風 破局がせまる [駆逐艦神風]

 雨ノ宮氏は、四囲の情勢と、目の前の
現実との食い違いが、納得しにくくなって
いました。

 下士官の目がとらえる狭い範囲の戦闘
経過だけで、正確な判断は難しいという
現実がありましたが、破局がせまっている
ことは感じられました。

 敵と渡り合っている第一線の兵士には、
大局を知るすべはないところへ、マイナス
情報を極端に抑え、プラス面はかなり各自の
願望をまじえてとらえていました。

 従って、兵士は、表面的にはのんきに
過ごしていました。しかし、一皮むけば、
そこには、息もつまる終末感がせまって
いて、皆、再び生きて帰れるなど、
思いもしませんでした。

 雨ノ宮氏が、海軍に招集された1943年は、
5月にアッツ島で玉砕し、6月には山本長官が
戦死、1年後のマリアナ沖海戦とレイテ沖海戦で、
航空戦力、主要艦船はほぼ壊滅していました。

 しかし、雨ノ宮氏らには、詳細は伝えられて
いませんでした。そのため、1945年3月26日、
リンガ泊地に停泊していた神風では、水泳したり、
甲板で飼育していた鶏が誤って海に落ち、
大騒ぎで拾い上げたり、スコールによる
沐浴をつかったりといった、のんびりした
日々を過ごしていました。

 しかし、アメリカ軍は、この日、沖縄に上陸し、
嘉手納沖から、本島の土を大きな靴が、ふみ
にじっていました。そして、先日夜襲訓練をした
矢矧と大和は、菊水作戦に参加して撃沈
しています。

 これらのことも、雨ノ宮氏は全く知らされて
いませんでした。しかし、知っていたとしても、
行き着くところまで行くしかなかったのでは
ないかとしています。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
nice!(0)  コメント(0) 

駆逐艦神風 官僚海軍 [駆逐艦神風]

 工廠についた雨ノ宮氏と、電信の
下田二曹は、海軍書記と称する軍属と
会いました。

 大きなプロペラが回る扇風機の下で、
二人は立たされたまま、書記は籐椅子に
もたれて、威張ったような態度を、とって
いました。

 そして、「書類に不備があり、印鑑も
足りないので、もう一度出直してもらい
たいな。」と言い放つと、後ろを向いて
しまいました。

 緊急に必要な部品だったので、都合して
もらう必要があり、二人は食い下がりましたが、
「書類を整えてから」と繰り返すのみでした。

 雨ノ宮氏は、官僚海軍、書類海軍という
風評は知らないわけではありませんでしたが、
納得のいかないものがこみ上げ、我慢が
なりませんでした。

 書記が、「今は休憩時間だ」と言い放った時、
下田二曹が、ついに爆発しました。「まだ話が
ある。こっちを向け。」と、書記に飛びついて、
胸ぐらをとりました。

 いつもはおとなしい下田二曹が爆発したので、
雨ノ宮氏も、「もっときちんとした話をしろ。」と
声を張り上げ、書記の座っていた籐椅子を
けとばしていました。

 すると、書記は、とたんに猫のように豹変
しました。このことが、余計に憤慨をさそい
ました。

 雨ノ宮氏と、下田二曹は、「ああいう奴らが
いるんだ」「ああいう奴をのさばらしている者が
いるということですよ。」と話し合っていました。

 結局、帰り道も怒りが収まりませんでした。


紹介書籍:駆逐艦「神風」電探戦記
著者: 「夕雲」及川幸介、「早潮」岡本辰蔵、「神風」雨ノ宮洋之介
nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。