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巡洋艦最上 三隈と衝突 [巡洋艦最上]

 副長の「三隈が近い」という叫びを聞いた
曾禰氏は、双眼鏡から目を離し、右方向を
見ました。そこには、黒山のような三隈の姿が、
覆いかぶさるように近接していました。

 ギョッとする間もなく、曾禰氏は「取舵
いっぱい。急げ。」と、その時の操艦者の
航海長に命じました。しかし、28ノットで
近づいてくる三隈を、避けることは
できませんでした。

 舵が効き始めたかどうかという時、
最上の艦首で、三隈の左舷中部を
擦過してしまいました。

 艦橋にいた曾禰氏には、大きな衝撃は
感じませんでしたが、中甲板にいた乗員は、
この当時のことを、次のように述懐しています。

 「仮眠をとっていた時、突然、ズシーン
というものすごい音と共に、艦は浮き上がる
ように上下に揺れて、ベッドから放り出され
ました。

 魚雷の命中か、触雷か座礁か分からないが、
ただごとではない。急いで上甲板に出て
みました。

 見れば、今まで白波を立てて全速航海中で
あったのに、後進で動いていました。前甲板に
行ってみると、一番砲塔付近に多くの乗員が
集まって個々に叫んでいました。

 ふと見ると、格好よくせり上がった艦首の
錨甲板がなくなっていました。艦内に、“防水。
第一防水むしろ出し方前方”と伝わって
いるのが、かすかに聞こえました。

 ハッとなり、応急防水に取り掛かり
ました。」となっています。

(追記)
 防水むしろというのは、吃水線下で亀裂が
発生した時、損傷の部分に当てて、膏薬でも
張るようにする、何畳敷もあるような
防水マットです。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦最上 運命のいたずらの一瞬 [巡洋艦最上]

 旗艦熊野からの、「赤々(左45度、
緊急一斉回頭)」という司令は、突然
潜水艦を発見したので、危険を避ける
第一段階の処理であり、非常の際に
時々出されるものでした。

 この命令は、無線封止の上で、唯一
使用できる無線電話での司令となるので、
二番艦から四番艦まで、逐次了解という
返事をもらい、全艦了解したことを
確認してから、発動されます。

 発動後は、一番艦から四番艦までが
発動した旨の報告をして、全艦命令通りに
行動したことの報告を受け、了解するのが
常道でした。念には念を入れて行うように、
訓練されていました。

 しかし、今回偶然か、過失か、不運の
一幕がありました。それは、「赤々」の
命令が、旗艦の熊野からは2回連続で
出されました。

 しかし、2回目の命令は、最上最高
責任者の曾禰氏にも、航海長にも、
届きませんでした。

 電話の一時的な故障か、連続で出されて、
後の命令は誤りだろうと電話員が独断で
判断したかのどちらかだろうとしています。

 二回目の「赤々」の命令の時に、「さらに赤々」、
または、「赤々90度」と下命されていれば、過誤は
なかったと思われるとしています。誠に不運というか、
過失と言うか運命のいたずらの一瞬でした。

 曾禰氏は、第1回目の「緊急斉動」を
実施後、針路が定まったと思い、急いで、
右45度方向に双眼鏡をあてて、遠くを
眺めました。

 そこには、潜水艦らしき黒一点が
見えました。曾禰氏は、2分ほどその
静動を注視していました。その時、
副長が、「三隈が近い」と叫びました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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