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巡洋艦五十鈴 忘れられない戦闘 [巡洋艦五十鈴、摩耶]

 珊瑚礁を通過した井上氏は、直ちに、
「両舷機、前進原速」を下命しました。
すると、再び泊地内をグルグルまわり
だしました。そして、引き続き対空戦闘に
従事しました。

 後で気づきましたが、珊瑚礁の水深は、
五十鈴の吃水より深い位置にありました。
南洋の海水は澄んでいるので、太陽光線が
斜めに通過する朝方や夕方は、白く見える
ことがあります。自然現象のいたずらに
気づかなかったということです。

 約45分の対空戦闘が終わり、敵機が
退散した後、五十鈴の後部の被害を調査
してみると、500kg爆弾が、上甲板を
突き抜けて、舵取機械の軸に不発の
まま命中して、軸を切断していました。
戦死者は、20名ほどでした。

 僚艦の長良は、無事な姿を南洋の静かな海に
浮かべていましたが、多少の被害はあったよう
でした。近くに停泊していた1万t級の弾薬
輸送船は、命中した爆弾が火薬に命中し、
瞬時に轟沈しました。幸い、乗員の被害は
ありませんでした。

 目的である基地輸送作戦は、実施できなく
なり、五十鈴は、応急手当をした後、長良と
共に、12月上旬、トラック島に帰港しました。


 海上作戦に従事していれば、大作戦に
何回か遭遇するものの、本当に死を覚悟
しなければならないような激戦は、そう度々
あるものではありませんでした。

 しかし、ルオット沖のこの対空戦闘は、
井上氏にとって激烈な死を覚悟しなければ
ならない、忘れられない戦闘の一つと
なったとしています。

 クェゼリン、ルオットの両基地は、
1944年2月のアメリカ陸軍上陸作戦で、
ついに全滅しました。このことは、井上氏に
とって、脳裏からぬぐい去ることのない
痛恨事となりました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦五十鈴 舵きかず [巡洋艦五十鈴、摩耶]

 一瞬の時間ももどかしいと感じていた
井上氏は、艦橋の速度計を確認しました。
喜ぶべきことに、五十鈴のエンジンは、
前進回転をはじめていました。

 これでよしとホット息を抜いた途端、
敵機の1弾が、艦の後部に命中したようで、
船体に激しい振動を感じました。しかし、
井上氏は、操舵に熱中しました。

 現在、狭い環礁の中を航海しているので、
全力を出すわけにはいかず、「両舷機、
前進強速」を令しました。

 後部からの被害の報告はきませんでしたが、
火災は起きていないことから、大きな
被害ではないと判断しました。

 しかし、艦の行き脚がつくに従い、舵が
きいていない事が分かりました。その直後、
艦が同じ方向にぐるぐる回り出しました。

 井上氏は、すぐに、「応急操舵、配置につけ」
を下命すると、爆弾回避のためには、そのまま
動いている方が安全と考え、そのまま泊地を
グルグル回ることにしました。

 その時、井上氏の視線の先150mくらいの
行く手に、南洋特有の珊瑚礁が、白く見えました。
舵がきかない上に、空襲中の五十鈴が、珊瑚礁に
向かっているという状況で、今から機関を
停止しても、座礁は必至でした。

 万事休すと考えた井上氏は、艦長に、
「このまま乗り上げます。」と報告するや、
被害を最小限にするため、「両舷停止、
後進いっぱい」と、号令しましたが、
その時には、五十鈴は、珊瑚礁に
乗りかかっていました。

 座礁を覚悟していた井上氏に対し、天佑か、
神力か、艦は微動すらせず、珊瑚礁を通過
しました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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