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巡洋艦最上 地獄絵図 [巡洋艦最上]

 最上は艦首を破損し、造波抵抗が大きくなり、
左右にかき分ける艦首波から推定し、高速で
航行していると、敵に思われました。

 敵機は、最大の28ノットで航行していると
勘違いし、最上のはるか前方を観測していた
ようで、「捜索すれど、敵影なし。」とでも
打電しているようでした。

 曾禰氏は、戦闘終了後も、艦橋から動かずに
いました。最上の処置は、副長に任せていたので、
ときおり、その報告を聞くのみで、見える範囲に
ある上甲板の状況以外は、全く分かりませんでした。

 艦内の片付けと清掃作業が行われていました。
一番困難な作業は、遺体と負傷者の処置でした。
艦内で比較的広い、士官室と士官次室に、
重軽傷者は、収容されました。

 この時の様子を、応急員が次のように書き
残していました。「上半身のないもの、片腕が
ちぎれたもの、首のないもの、内臓が、
露出して黒焦げの者、外傷はないが、
強烈な爆風にやられたであろう者
などがありました。

 生臭い血の匂いは、焼け跡のペンキとの
匂いと混じって、異様なまでの光景を呈して
いました。艦が動揺するたびに、流れ出た
血が、甲板を移動し、歩くと滑って地獄絵図
にも比すべき有様でした。

 分隊員は、戦死者の枕元に、パンをお供え
することを忘れていませんでした。艦内を
片付ける乗員は、手を洗う水もなく、そんな
手を忘れたように、パンを齧って働いて
いました。

 そのうち疲れて、戦死者や負傷者の近くに、
横になっている乗員も見受けられた。」と
なっています。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦最上 艦霊の慟哭 [巡洋艦最上]

 曾禰氏は、「昨日来の敵機による強襲で、
最上被弾するも、戦闘航行に支障なし。
三隈は、被弾、航行能力を失したるものの
ごとし、重傷者を収容の上、西航を続航す。

 朝潮報告によれば、三隈の所在海面に
至るも、艦影を見ずという。確認したるもの
なきも、沈没せる算段大なりと認む。
撃墜数8機。」と報告しています。

 曾禰氏は、暗然として、三隈と戦死者の
霊に黙禱をささげました。曾禰氏は、最上の
艦霊が、やるせない思いで慟哭を続けたと
感じていました。親友以上に、いつも連れ
添った三隈と永久の訣別となりました。

 さらに、最上自身も、乗員の一割近い
勇敢な乗員を戦死させたことに対し、
「艦長よ。まだ努力が足らぬぞ。」と、
お叱りを受けたような気持ちで、
命も縮まる思いでした。

 これまでは、最上、三隈、朝潮、荒潮の
4隻で、仲良く西航を続けていましたが、
この日から、最上と朝潮のみで、荒潮は、
ずっと遅れて後方を進むという、寂しい
逃避行となりました。

(追記)
 戦後、曾禰氏は、アメリカから来た
技術調査団に、三隈の最期を確認して
います。

 それによると、三隈はしばし浮いて
いましたが、潜水艦の雷撃で撃沈した
とのことでした。

 付近に浮いている乗員を救助しようと
したが、大部分は、拒絶したという
ことでした。

 何人かは救助したので、遠からず
帰国を許されるだろうということでした。
当時の状況は、この人達に確認すれば
よい。」と言われました。

 曾禰氏は、三隈の最期を、戦後に
なってから確認し、痛々しいと
しています。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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