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巡洋艦摩耶 魚雷命中 [巡洋艦五十鈴、摩耶]

 潜水艦攻撃の号令で忙しい艦長を認め、
井上氏は、とっさに情勢の非なるを見て、
「もどせ。取舵いっぱい。両舷機関
前進いっぱい。」と、下令しました。

 この時、艦首はまだ、面舵に回り始めて
おらず、井上氏の命令で、舵は、「急速取舵」に
とられました。雷跡は、左前方から近づいて
きますが、艦首は、回頭を始めようと
しませんでした。

 その間も、水中聴音機室から、魚雷音の
近接を、悲痛な声で報告してきました。
この時、井上氏は、海面に目をやり、
敵の魚雷が4本であることを知りました。

 進退ここにきわまったと感じました。
井上氏は、腹を決め、艦橋後部にいた
副長は、次の瞬間に起こる修羅場を
考えて、早くも「防水」を令して
いました。

 その時、第一魚雷が第二砲塔左舷に
命中し、黒煙を天高くふきあげて、
爆発しました。

 続いて、第二~第四の魚雷が、艦橋
後方に次々に命中し、ドスンドスンという
鈍い音と、船体の身ぶるいする音が
聞こえ、摩耶は、急速に左舷に傾いて
いきました。

 全てが一分以内の出来事で、何を
する暇も、すべもありませんでした。
それでも摩耶は、第一魚雷爆発の
黒い煙をかいくぐって、進んで
いきました。

 弾薬庫に当たれば、轟沈すること必定と
覚悟を決めていましたが、幸いにその様子は
ありませんでした。しかし、轟沈を免れたに
しても、摩耶は急速に傾いて刻々と沈没
しており、眼下にははやくも海水が
見えだしました。

 これまでと思った井上氏は、艦長を
うながして、離艦をすすめました。
後ろを見ると、大傾斜した艦側に乗員が
すずなりに集まって、海中に放り出されて
いました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦摩耶 魔の時刻10月23日午前6時30分 [巡洋艦五十鈴、摩耶]

 艦隊は、出撃した翌朝には、はやくも
パラワン水道の南口にかかりました。

 この付近はもとより、敵潜水艦の待ち伏せを
受ける公算が大きかったので、対潜警戒航行
隊形のまま、未明から総員配置につけて、
見張りを厳重にしていました。

 やがて、井上氏が、戦後も忘れられないという
魔の時刻10月23日午前6時30分がきました。
この時、艦隊左翼列先頭を走っていた旗艦
愛宕に、突如として敵の魚雷が4本命中し、
たちまち沈没しました。

 続いて二番艦高雄も、日本の魚雷が命中し、
大破損しました。たちまち、隊列は大混乱に
おちいり、右翼列から、三番目にあった摩耶は、
さらなる厳重な見張りで、警戒していました。

 ところが、午前6時53分、敵魚雷が4本、
摩耶に襲いかかってきました。この時、
井上氏は、航海長として摩耶艦橋で操縦
しており、かたわらには、大江艦長が立って、
全般の指揮をとっていました。

 それだけに、このときの悲惨な様子は、
戦後もはっきりと回想できるとしています。
愛宕、高雄の被雷後、まもなく艦底に近い
水中聴音機室から、「魚雷音、左30度」の
報告が届けられました。

 急ぎ、その方面に視線を向けるより速く、
艦長は、「面舵いっぱい」を命じました。
一瞬、井上氏の目にも、雷跡が白い筋を
引きながら、左前方から近づいてくるのが
認められました。

 舵は、面舵にとられており、艦首は、
右方向に回り始めてようとしていました。
しかし、左前方に雷跡を見て、面舵をとると、
艦の左舷に垂直に、魚雷が命中することに
なります。

 ふと、艦長を見ると、潜水艦攻撃の号令を、
次々にかけていました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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