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山口多聞 搭乗員乗り込む [山口多聞]

 搭乗員を迎え入れる準備が整うと、
「搭乗員集合。整列。」という川口飛行長が
号令を発しました。

 搭乗員は、艦橋前の飛行甲板に勢ぞろい
しました。山口少将は、これから死闘の場へ
赴く日本男児を見回しました。どの顔も、
精悍で頼もしく感じられました。

 ここで多くの言葉を費やさなくても、作戦内容は
熟知しており、必勝に向けた思いは、以心伝心で
分かりました。山口少将は、「諸子の武運を祈る。」
といつもの鷹揚な態度は崩さず、語気を強めました。

 搭乗員の緊張した顔が一段と引き締まり、顎を
引きました。艦長の加来止男(かくとめお)大佐は、
激励の訓辞を行い、川口飛行長が簡潔に注意事項を
告げました。

 山口少将は、友永丈市(ともながじょういち)大尉を
見つめました。攻撃隊の成否は、抜擢された友永大尉の
双肩にかかっていました。

 本来なら、真珠湾奇襲の時に第一次攻撃隊の
指揮官だった淵田美津雄中佐が適任でしたが、
航海途中で、急性盲腸炎に罹り、赤城艦内で
手術を受けた後、安静にしていました。

 友永大尉の鋭角的な顎がさらに研ぎ澄まされて
いるように見えました。「頼むぞ」と山口少将は
言葉をかけ、心に帰することのあった友永大尉は
深くうなずきました。

 飛行長が、「搭乗」と声を張り上げ、搭乗員は
眦を決し、敬礼しました。踵を返し、愛機に駆け
寄っていきました。

 整備員はアクセルにあたるスロットルレバーを
スローにすると、操縦席から出て、左翼の付け根に
降り、慎重に甲板に足を降ろしました。

 搭乗員は開いたままの風防に両手をかけ、
次々に中に乗り込みました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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山口多聞 発艦準備 [山口多聞]

 赤城の見張り員が、東北の方向の雲間に、
敵機らしき機影を二度発見していました。
全艦に対し、発光信号で警戒するように
発しました。

 飛龍の電信室から艦橋に、「味方の攻略
船団が、敵哨戒機に発見され、午後から
B17に攻撃を受け、輸送船が雷撃により
損傷。」という連絡が入りました。

 これを聞いた山口少将は、「B17か。ミッド
ウェー基地から飛び立ったやつだな。基地には
航空機がいないかもしれん。これで、奇襲は
望めなくなったが、しかたあるまい。」と
忸怩たる思いで水平線を見やりました。

 6月5日の夜が明けました。午前零時45分、
総員起こしの号令がスピーカーを通して、
艦内に響き渡りました。仄暗い東の空が、
徐々に明るくなり、瞬いていた星が消えて
いきました。

 水平線にたなびいている黒い雲が、かすかに
橙色に染まり、コールタールのように濃縮した
海が、紺青の輝きを帯びてきて、夜明けが
迫っていました。

 飛龍の飛行甲板には、昇降機によって、
艦内の格納庫から揚げられた零戦21型9機と、
97式艦上攻撃機18機が横一列に3機づつ
寄せ合うように待機していました。

 先陣を切る零戦は前方に、零戦より滑走距離が
必要な艦上攻撃機は後方に控えていました。艦上
攻撃機には、800kg爆弾を腹に抱えており、
いかにも重たそうでした。

「コンタクト」という発進係の整備曹長が号令を
かけました。整備員によって、艦上機は起動し、
エンジンの音が、轟々と唸りました。搭乗員を
迎える準備が整いました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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