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山口多聞 御真影 [山口多聞]

 飛龍の艦上爆撃機整備分隊長の岩元大尉は、
二式艦上偵察機の整備に当たっていました。
整備が完了し、自室に立ち寄って格納庫に
戻ったところで、対空戦闘の拡声器が
鳴り響きました。

 ラッタルを駆け上がると、衝撃を受け、
艦もろともに身体が左右にぐらつきました。
岩元大尉は、飛龍もついに被弾したかと
悲壮感を抱きながら、前部格納庫へ
走っていきました。

 格納庫から、前の通路にかけて、真っ黒な煙と
赤黒い火焔が噴きだしていました。通路には米俵や
乾パンなど積んであり、それらが燃えていました。

 大勢に乗員が、狭い通路を濁流のように駆けて
来ました。岩元大尉は、逃げる群れに呑まれて、
前部甲板に出ました。

 飛行甲板から、凄まじい黒煙と火焔が立ち上って
いました。甲板は、木でできており、そのせいで
火の勢いが強くなっていました。

 森本三等兵操舵員は、次席操舵員として前部
転輪羅針儀、音響測探儀などを受け持っていま
したが、この時は、御真影を庶務主任の川上少尉と
収納箱に収め、森本三等兵操舵員が背負って、
甲板に上がっていていました。

 この時、丁度避難していた岩元大尉と出会い
ました。岩元大尉は、御真影が無事に運ばれた
ことを喜びました。

 甲板に出た森本三等兵操舵員は、手旗信号で、
「御真影は、前甲板に安置せり。岩元大尉以下
20数名。」と送っています。

 午後7時45分、御真影は、乗員救助に飛龍に
近寄ってきた風雲に奉遷されました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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山口多聞 橋本大尉脱出 [山口多聞]

 飛龍は、3発の爆弾が狙ったように
3台の昇降機に命中し、それぞれに
火山の噴火口のような火焔をあげて
いました。

 艦首に近い甲板に大きく描かれた日の丸は
どこにも見えませんでした。壮絶な光景
でした。

 乗員が、艦橋の周りを防御しているマント
レットを取り出し、ロープに結んで海水に浸し、
甲板にあげて炎を叩きつけました。艦橋の
まわりは、ひとまず火勢が弱まりました。

 午後7時5分、駆逐艦風雲が左舷にやってきて
ホースから海水を浴びせました。40分後には、
駆逐艦谷風が寄り添うようにやってきて、消火
活動に協力しました。


 第二次攻撃隊から帰還した橋本大尉は、
搭乗員待機室にいたときに、被弾しました。
電灯が消えて真っ暗になり、格納庫に備え
られていた大型消火器の炭酸ガスが艦内に
広がり、数人の戦友が倒れていきました。

 橋本大尉は、意識を失った人達に躓きながら、
暗闇を手探りのままあえぎ、もがきながら歩いて、
爆弾の破孔から這い上がって、艦橋横に倒れ
ました。橋本大尉は、何とか脱出に成功しました。

 橋本大尉の攻撃機を操縦していた高橋上飛曹は、
とうとう脱出してきませんでした。他の搭乗員から、
脱出不可能と判断して、護身用拳銃で最期を
遂げたという事でした。

 橋本大尉は、ミッドウェー海戦後も、
紫電改部隊として名を馳せる第343部隊の
偵察飛行隊長として、高速偵察機彩雲を
駆使して活躍し、奇跡的に死線を潜り抜け、
終戦を迎えることができました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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