源田実参謀 山本長官の進言

　「対米戦は勝てない、絶対に戦うべからず。」
と主張していた山本長官が、対米戦も辞せずと
公的に表明したのは、海軍大臣及川古士郎大将に
送った１９４１年１月７日付の書簡でした。

　「海軍ことに連合艦隊としては、対米英必戦を
覚悟して、戦備に訓練に、はたまた作戦計画に
真剣に邁進すべき時期に入ったのは、もちろんで
ある。・・・作戦方法に関する従来の研究は、正々
堂々の邀撃大作戦を対象とするものであった。

　しかし、度重なる図上演習などの結果を見ると、
帝国海軍は、まだ１回の大勝を得たこともなく、
このまま推移すれば、おそらくジリ貧に陥るのでは
ないかと懸念される情勢で、演習中止となるのを
恒例としていた。

　だが、いやしくも開戦と決した以上、このような
経過は断じて避けなければならない。」として
います。そして、この後、ハワイ攻撃の詳細を
述べた上で、航空艦隊司令長官を拝命して、
攻撃部隊を直率する事を切望すると
しています。

　そして、連合艦隊司令長官には、元司令長官に
して海軍大臣の米内光政予備役海軍大将が、
この人ありと確信するとしています。

　米内は、親英米路線を保持しようとして、
対英米強硬派から捨てられて、首相の座を
追われており、それを現役に復帰させ、
４年前に退任した連合艦隊司令長官に
就けるのは不可能な意見でした。

　山本長官は、この意見を出せば、対英米戦に
反対すると見越して進言したといわれていますが、
この意見のお陰で、対米戦にやる気を持っていると
見られ、連合艦隊司令長官として、対英米戦を
推進する側に立たされることになりました。


紹介書籍：航空作戦参謀　源田実
著者：生出　寿

源田実参謀 奇想天外を好む

　山本長官から大西少将宛の手紙には、
衝撃的な続きがありました。

　「開戦劈頭、ハワイ方面にあるアメリカ太平洋
艦隊主力対し、飛行機隊の全力を持って痛撃し、
当分の間アメリカ艦隊の西太平洋侵攻を
不可能にする必要がある。

　目標は、アメリカ戦艦群であり、攻撃は雷撃に
よる片道攻撃とする。」とありました。片道攻撃とは、
遠距離から攻撃に向かい、燃料が切れる帰り道は、
海上に不時着して味方の駆逐艦や潜水艦に
救助してもらうというものです。

　手紙には、「本作戦は、自ら空襲部隊の
指揮官となり、作戦遂行に全力を尽くす
決意である。この作戦をいかなる方法に
よって、実施すればよいか、研究して
もらいたい。｣というものでした。

　源田参謀は、もともと奇想天外を好んで
いましたが、この放胆で巨大スケールの
奇襲攻撃には「一本とられた。」と感じ、
同じ小男ながら巨人のような山本長官に
敬服し、ハワイ攻撃に限りなく意欲を
燃やしました。

　源田参謀は、鵯越え、川中島、桶狭間の
ような奇襲を偲ばせる劇的な戦法である
ハワイ攻撃に対し、自分が主役の一人に
なって、航空主兵・戦艦無用論を、実証
できそうな、願ってもない作戦と
考えていました。

（追記）
　ハワイ攻撃には、あきれしか出てこない
というのが個人的な感想です。ハワイ攻撃に
賛成という点では、山口少将も同様なので、
海軍全体に問題があったのではと疑いたく
なります。その中でも、上記の源田参謀の
感想は、異常としかいえません。

　鵯越え、川中島は、どちらも、背後には
正面から戦っても、互角の戦力を有していた
からできたとも言え、桶狭間は、仕方なしで
やっていますが、織田信長は、このような事は
何度も成功しないと判断し、この後は、奇襲
戦法は取っていません。


紹介書籍：航空作戦参謀　源田実
著者：生出　寿