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山口多聞 飛龍に雷撃 [山口多聞]

 山口少将と加来艦長の2人きりになりました。
短艇を搭載した駆逐艦は、飛龍から去って
いきました。

 駆逐艦の甲板には、先ほどまで飛龍に乗り
込んでいた将兵が手を振り、「司令官!艦長!」、
「さようなら」、「靖国で会いましょう」と、
絶叫していました。

 山口少将と加来艦長は、二人並んで見送り
ました。山口少将は、先任参謀からもらった
手ぬぐいを振りました。声は小さくなり、
駆逐艦は遠ざかっていきました。

 駆逐艦風雲が、1000mの位置に止まり、
信号員が、「ただいまより、謹んで雷撃を
撃沈す。」の手旗信号を送ってきました。
山口少将と加来艦長はその場から離れ、
火が消えた艦橋の中に向かいました。

 午前2時10分、風雲が魚雷を発射しました。
1発目は、艦底を通り過ぎていきました。これは、
艦を処分する際の、儀礼として行われたもの
でした。

 その後、2000mまで離れ、90度の角度で、
発射台から二発目の魚雷を発射しました。
間もなく飛龍から閃光が上がり、赤黒い爆煙が
立ち上りました。その場にいた全員が瞑目しました。


 ここで、飛龍の甲板にありえないものが見え
ました。機関室で作業していた人達でした。
飛龍には、山口少将と加来艦長以外にも
まだ乗員が残っていました。

 駆逐艦甲板にいた飛龍の乗員は、飛龍甲板に
上がってきた残っている乗員を見つけました。
飛龍副長は、風雲艦長に直談判し、最後の
一兵まで収容して欲しいとお願いしました。

 しかし、渦に巻き込まれることと、敵機からの
攻撃がいつ来るか分からないという理由で
拒否されました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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山口多聞 艦と運命を共にする [山口多聞]

 山口少将は、艦と運命を共にする弊害は、
理屈としては分かっていました。

 しかし、「武人には死ねる場所と時が、天から
与えられている。それを踏みにじった時、天は
罰を下し、栄光ある死ではなく、武人らしからぬ
最期を遂げる。」と考えていました。口には
出さなかったものの、覚悟はできていました。

 幕僚は、立ち去ることができませんでした。
加来艦長は、山口少将に、「私は艦の最期を
見届けますが、司令官は海軍の宝です。再起を
はかり、いずれ連合艦隊司令長官となり、この
仇を討ってください。」といいました。

 山口少将は、「艦長が司令官なら、ここを
立ち去るかね。」とやさしく言うと、加来艦長は
押し黙りました。幕僚らは、粛然となりました。

 ここに、第十駆逐隊の阿部俊雄司令官が、
風雲から移乗してきて、退艦の説得に当たり
ましたが、きっぱりことわられました。

 山口少将と加来艦長は、一人ずつ握手し、
まるで明日会おうといった温顔で手を握り締め
ました。握手を終えた者から、静かな足取りで、
飛行甲板のポケットに歩き、垂れ下がった
ロープや縄梯子につかまり、駆逐艦の
内火艇に乗り移りました。

 先任参謀から、「何か遺品をいただけ
ませんか。」と問われた山口少将は、顎紐を
解き、被っていた戦闘帽を手渡しました。

 代わりに、先任参謀に、手拭いをくれるように
頼み、先任参謀から受け取っています。
そして、山口少将は、全員撤収したら、
飛龍を沈めることを厳命しました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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