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山口多聞 機関兵、飛行甲板まで脱出 [山口多聞]

 滝のように海水が流れ込んでくる中を、
萬代機関長付は、機関長を先導しながら
ラッタルを上っていきました。

 この時点で力尽きて、ラッタルを登れない
乗員もいました。実際、8号缶の乗員は、
だれ一人登ってきませんでした。

 萬代機関長付は、格納庫に到着し、焼け
爛れた飛行機の残骸と、大勢の戦死者が
横たわっていました。さらに飛行甲板に
上がると、すでに誰もいませんでした。
飛行甲板に集合させると、全て機関科の
乗員でした。

 状況を確認すると、前部昇降機が、艦橋前に
立ちふさがっており、格納庫の底からは、渦を
巻いて浸水してきました。マストに翻っている
はずの旗がなく、萬代機関長付は、ようやく
何があったのか、呑みこめました。

 総員退去の命令が出され、先程の大爆発は、
味方駆逐艦からの魚雷が炸裂したものだと
把握しました。

 見渡す限り海原であり、疲れがどっと出て
きました。萬代機関長付は、機関長に、
「艦と運命を共にするなら、寝るのが
一番です。」と進言していました。

 やっとのことで甲板に上がった機関員は、
焼け焦げていない部分に横たわり、ほとんどの
者が、直ぐに眠りについてしまいました。

 その時、人の声がしました。萬代機関長付が
目を覚ますと、2km先にいる駆逐艦を発見して、
上着を脱いで打ち振るっていました。しかし、
駆逐艦は、発行信号を点滅させて立ち去って
いきました。

 萬代機関長付が話を聞くと、後部短艇甲板まで
行ったところ、味方の艦載機が飛来して旋回し、
お互いに手を振ったと言う事でした。萬代機関長付は、
山本長官の艦隊が、近くに来ているとは判断しました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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山口多聞 残された機関兵 [山口多聞]

 萬代機関長付は、味方駆逐艦からの
雷撃を受けた時、機関部にいました。

 静かだった艦内が突然大爆発しました。
衝撃で、身体が宙に浮き、もんどりうって
床に叩きつけられました。敵機の爆撃かと
思いましたが、また静かになりました。

 不思議なことに、傾いていた船体が
水平に戻っていました。さらに、耳を
すますと、舷側の波の音が聞こえて
きました。

 ゆっくり前進しているようでした。
利根や筑摩に曳航されているのだろうと、
希望的な会話が交わされました。

 一方で、爆発の衝撃で米俵が燃え上がり
ました。火災以上に深刻なのは、缶の予備水
タンクが急減していることでした。

 機械室の給水タンクが底をついたため、
海水を補給水として使用していましたが、
缶管がいつ破裂するか分からない状態
でした。

 萬代機関長付らは、一刻の猶予ないと
判断し、脱出路を探すことにしました。
すると、通路と格納庫の間の隔壁に、
ピンホールが見つかりました。ピンホールから
入る、斜めの光線が、希望の日差しに
なっていました。

 萬代機関長付は、タガネで隔壁を切り開いて
脱出することを考え、短艇員の元気な乗員を
集めて、大ハンマーを交代で震わせました。
そして、どうにか一人がくぐれる四角の穴が
切り開かれました。

 萬代機関長付は、機関長に状況の報告をし、
総員脱出の命令を出してもらいました。機関長は
了承し、ここから脱出を始めました。

 缶室の通路は、膝まで浸水している上に、
ハッチを空けると滝のように海水が流れ込んで
きました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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