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山口多聞 山口少将と加来艦長の覚悟 [山口多聞]

 山口少将から退艦を促された幕僚は、
「司令官が先です。お願いしますから
早くしてください。」と悲痛な声で
懇願しました。

 これに対し、山口少将は、「馬鹿なことを
言うものじゃない。司令官は、部下を見届け
なくてはならん。司令官が、先にのこのこと
退艦などしたら末代までの恥になる。君たちが
先だ。」として、頑として聞き入れませんでした。

 さらに、「今は一刻を争う。戦いはこれからだ。
君たちには、試練が待ち受けていると思うが、
ここで死なせるわけにはいかん。これは司令官の
命令だ。直ちに退艦してくれ。」と、語気を強めて
決然と言い放ちました。

 幕僚は、山口少将と加来艦長の覚悟を知り、
「司令官、艦長、退艦してください。」と泣きながら
訴えました。加来艦長は、「それはできない。
わかってくれ。これが艦長としての最後の
ご奉公だ。」となぐさめるように告げました。

 「司令官だけでも」と悲壮な形相が山口少将の
周りに詰め寄りました。司令官が、艦と運命を共にする
義理はありませんでした。南雲長官は、赤城を離れ、
長良に移っていました。

 本来なら、艦長も艦と運命を共にすべきでは
ないかもしれないとも考えていました。イギリス提督の
先例に倣ってのことでしたが、悪弊だと唱えるものは
海軍内にもいました。

 軍艦は、作れることできましたが、人は
作ることはできませんでした。艦と運命を
共にする必要が本当にあるのかと、幕僚たちは
問いかけていました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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山口多聞 総員退去 [山口多聞]

 「軍艦旗、将旗を撤収。」という号令が
かかり、ラッパ手は、「君が代」を哀調
あふれる音で吹きました。傷ついた
軍艦旗と将旗が、マストから一括で
降ろされ、丁寧にたたまれました。

 「ただいまより、総員退去を命じる。」という
加来艦長が、腹の底から絞り出す様な声で
告げました。午後零時15分でした。

 しかし、誰もすぐには動こうとしません
でした。せかすように退艦を告げる
ラッパが、悲壮感を漂わせながら
鳴り響きました。

 飛龍の傍らには、駆逐艦の風雲と巻雲が
待機していました。飛龍と駆逐艦の間には、
ありったけの短艇が並べられていました。
乗員は、泣く泣く艦橋前から離れて
いきました。

 両舷からロープがおろされ、負傷者から先に
短艇に降ろされました。ミッドウェー攻撃の時に
片足を射抜かれた角野大尉は、竹のスノコで
作られた担架に包まれて、短艇に降ろされて、
駆逐艦に乗せられました。後に戦艦榛名に
移され、手術室で右足を膝下から切断されました。

 飛龍は、次第に左に傾いていきました。
乗員のほとんどが退艦し、駆逐艦の乗り終えた
のは、午前1時30分頃でした。

 飛龍は、白い噴煙をあげていました。飛龍の
甲板の上に残っているのは、山口少将、
加来艦長、幕僚、各科分隊長ぐらいに
なりました。

 山口少将は、幕僚たちに、「君たちも退艦
しなさい。いつ敵機がやってくるかもわからない。」と
促しました。しかし、幕僚らは、誰一人として、
うんと言う返事はしませんでした。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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