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山口多聞 もう一つの艦橋? [山口多聞]

 割れたガラス窓から外の様子を見た
山口少将は、信じられない光景を
見ました。

 艦橋の前に、もうひとつ艦橋がそそり立って
いました。これは、艦橋ではなく、直立した
前部昇降機でした。

 昇降機は、猛烈な爆風で吹き飛ばされ、
艦橋のように見えました。艦首はめくれ上がり、
炎を噴き上げていました。木でできた甲板も、
火焔が嘗めるように走り、風で煽られていました。

 甲板のそちこちから、黒煙まで上がりました。
格納庫では、艦上機の燃料や爆弾、機銃弾が
誘爆を起こして、激しい破裂音が、艦橋まで
伝わってきました。

 山口少将は、直ちに消火活動にあたり、
被害状況を報告せよと命じています。飛龍が
爆発炎上している最中にも、敵爆撃機は執拗に
爆弾を投下しました。

 幸い命中弾はありませんでした。午後3時30分、
敵は爆弾を投下して立ち去りました。この日の
攻撃は、これが最後となりました。皮肉なことに、
飛龍が第三次攻撃を予定していた時刻でした。

 この一時間後、飛龍は左に7度傾きました。艦内の
格納庫では、誘爆が続き、炎上が続いていました。
天空には無数の星が瞬く中、飛龍だけが、闇夜に
赤々と焔をあげていました。

 午後6時25分、艦橋までが炎に包まれました。
猛火のため、床の鉄鋲が熔け、下から火が噴き
上げてきました。艦橋周囲が赤くなり、内部からも
炎があがりました。

 山口少将は、加来艦長にひとまず退避する
ことを告げました。全員が、飛行甲板に降り
立ちました。黒煙の中、艦首部分や中央付近、
艦尾付近の惨状が見えました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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山口多聞 飛龍被弾 [山口多聞]

 敵に先手を打たれた山口少将の心臓は、
早鐘のように乱打しました。牡丹餅を、
むりやり呑み込み、窓に顔を押し付けて、
上空を見上げました。

 雲の間隙を縫って、ダグラスSBD
ドーントレスが降下してきました。
まるで数珠繋ぎになったかのように、
整然と一定間隔を持って突入して
きました。

 中には、背面飛行になって、垂直に
近い角度で迫ってくる機体もありました。

 飛龍は、食事の時の気を抜いた最悪の時に
急襲されました。「面舵一杯。最大戦速。」と、
加来艦長が叫びました。航海長が、階下の
操舵室に向かって、「対空戦闘。撃ち方始め。」の
号令をかけました。

 戦闘ラッパが鳴り響き、艦内スピーカで、
命令が伝えられました。戦闘配食をとって
いたせいか、各部署の反応が鈍く感じました。
金属製の音がして、爆弾が振ってきました。
1~3弾は外れて、水柱をあげました。

 その後、何弾か落とされたうちの1発が、
艦首付近に突き刺さり、あたりが閃光で白く
なりました。これまで体験したことのない
ような凄まじい衝撃が、下から突き上げる
ようにやってきました。

 艦橋にいた全員は、衝撃波で吹き飛ばされ、
横転してしまいました。大音響で、全ての音が
飛んでいき、何も聞こえなくなりました。
鼓膜は破れていないようでしたが、
耳鳴りがやみませんでした。

 爆裂音が、二度連続し、そのたびに艦全体が、
浮いたような衝撃が走りました。山口少将は、
壁に手を当てて起き上がりました。幸い、
骨折も怪我もないようでした。

 割れたガラス窓から、風が吹きこんでいました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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