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巡洋艦那智 夾叉すれども [巡洋艦那智]

 那智は、エクゼターに砲撃をしました。
初弾は、すべて遠弾でした。「下げ6、急げ。」
という号令が下り、連続射撃に入りました。

 第二弾は、近距離となりました。再度、
「高め、4」で修正し砲撃すると、夾叉と
なりました。

 各砲塔は、平素の鍛錬の真価をいかんなく
発揮し、弾丸は、矢継ぎ早に砲口を離れて
いきました。しかし、命中弾は出ません
でした。

 遠距離のため、弾丸は垂直に落下するので、
敵艦に命中する面積が狭くなっているから
でした。

 夾叉していながら、敵艦の前後左右に
巨大な水柱をあげるだけで、気は焦っても、
なかなか当たりませんでした。

 しかも、艦橋からまたもや、「目標左に変え、
三番艦。」という号令が下りました。
三番艦は、アメリカのヒューストンでした。
こちらも夾叉に持っていくと、ヒューストンは、
変針していきました。

 夾叉した場合、弾着を見すまして、有利な方へ
急転舵して逃げるのが常でした。こうなると、
砲弾は、無駄弾になりました。

 これを避弾運動といい、遠距離だと効果が
高い方法でした。敵は、夾叉すると、大角度の
避弾運動を行うので、いくら撃ってもあまり
効果は期待できませんでした。

 平素の訓練は、標的射撃しかしておらず、
避弾運動について、確固たる方針はありません
でした。教本を金科玉条とする射撃を行うのみで、
さっぱり成果になりませんでした。

 普段訓練していないことは、戦闘の最中には
でてこないもので、砲術長も思い切った転換が
できないようでした。

 教範の前提が覆された砲撃戦でした。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦那智 目標変更 [巡洋艦那智]

 撃ての命令が下り、那智の10門の主砲が、
一斉に火をふきました。午後5時47分で、
距離は、22kmでした。

 太平洋戦争勃発依頼、海戦における事実上の
第一弾が、放たれました。しかし、発令所は
意外なほど静まり返っていました。今は、
息をのんで、静かにその弾着を待つのみ
でした。

 弾丸の着弾までの時間は45秒で、まだ
弾丸は空中にあるはずでした。しかし、
この時に、第二弾の号令が下りました。

 しかも、「目標左、二番艦」というもので、
目標変更でした。そこに、「撃ち方はじめ。
急げ。」という命令まで来ました。

 萱嶋氏は、測的をやり直すことになり
ましたが、文句を言っている暇は
ありませんでした。

 第一弾の行方を見届ける暇もあらばこそ、
今までの射撃盤をご破算にして、目標を
敵の二番艦に変更しました。

 こうなると、羽黒との連係もあったものでは
ありませんでした。戦隊砲戦は、早くも
目茶苦茶になり、各艦思い思いの相手を
選んでの乱戦となりました。

 この後、初弾の結果が、観測機より
報告されました。なんと、初弾夾叉、
命中弾1という結果でした。

 萱嶋氏は、あと2~3斉射すれば、敵の
旗艦をやっつけられたものをと、
感じましたが、後の祭りでした。

 射撃盤は、新しい目標の算出に忙しい
状態でした。敵の二番艦は、イギリス海軍
戦技優勝艦の重巡洋艦エクゼターでした。

 この艦は、かつて南米ラプラタ河口で、
ドイツのポケット戦艦フォン・シュペーを
討ち取った艦でした。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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