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巡洋艦矢矧 責任観念 [軽巡洋艦矢矧]

 電探器より上の主砲指揮所から、乗員が
慌てておりてきて、海に飛び込んで
いました。あたりの乗員も後に
続いてきました。

 井上氏はわかりませんでしたが、
総員退艦の命令が出たようでした。
井上氏は、豊村曹長の姿がないことが、
気になりました。

 後で知ったことですが、豊村曹長は、
雷撃機発見の報告が遅れたことで、
矢矧に最初の魚雷を命中させて
しまったことに、責任を感じて
自害していました。

 井上氏は、あのときの瞬間の判断は、
間違いなかったと考えていました。実際、
あの時回避できても、その後の配給の
多さからすれば、どこかで食らっていた
だろうと考えていました。

 豊村曹長の責任観念は武人らしいものの、
井上氏は別の武人感を持っていました。
それは、命ある限り最後まで奮闘し、
戦争の終末に善処するというもの
でした。

 実際、井上氏は、戦後の人心動揺の時、
復員局に十余年間勤務し、終戦処理に任じ、
有終の美に一臂を添えていました。

 井上氏は、周囲を見渡し、「見張員、
総員退避。怪我しないように急げ。」と
督励して右舷を見ました。

 そこには、指揮棒を奮っている木金高射
指揮官がいました。近くにいる見張員は、
指揮官の様子を見ていました。

 井上氏は、大声で叫ぶ事は遠慮し、
見張員に海で泳いでいる人を指さして、
退艦をうながしました。

 他に誰もいないことを確認した
井上氏は、海に飛び込むために、
左舷に向かいました。

 ところが、急に矢矧が右に傾いたため、
右舷の見張壁まで押し転がされることに
なりました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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巡洋艦矢矧 託した伝言 [軽巡洋艦矢矧]

 カッターが吹き飛ばされたのを見た
井上氏は、先程、別れを言いにきた
渡辺見張長のことを思いました。

 井上氏は、渡辺見張長に妻子の
住所を告げ、伝言を頼んでいました。
しかし、本当に生存できるのが誰かは、
わかりませんでした。

 井上氏は、戦死したら、妻子の枕頭にだけ
立ち寄ってから靖国にまいろうと思って
いたので、渡辺見張長の伝言が届くことは
あまり期待はしていませんでした。

 しかし、目の前でカッターが粉砕され、
そこに渡辺見張長が乗っていたとしたらと
考えました。井上氏は、呆然となり、
念仏を唱えることさえ忘れていました。


 敵機の攻撃は、矢矧が浮いている限り、
緩めむことはありませんでした。爆弾や
魚雷を積んだままでは、空母に着艦
できないため、投下しておく必要が
ありました。

 漂泊している艦であっても、当たれば
命中弾であり、手加減するいわれは
ありませんでした。

 この時点で、矢矧は、10個以上の
爆弾と、5本以上の魚雷を受けて
いました。沈没は時間の問題
でしたが、それでも、最後まで
頑張っており、火薬の誘爆も
ありませんでした。

 破孔からの浸水による転覆もありません
でした。乗員一同よく頑張っていると
言えました。

 しかし、矢矧の終焉は近づいていました。
その時、右舷艦橋下に魚雷が命中しました。
爆発した黄色のガスが発生し、呼吸すれば、
窒息させる塩素ガスが、発生します。

 井上氏は、ガスマスクを装着し、風上に
避けて、ガスが消えるのを待ちました。
ガスが消えた後、改めて部屋を見て、
重たい12cm双眼鏡が落下しているのを
見つけ、驚きました。


紹介書籍:重巡「最上」出撃せよ
著者: 「矢矧」井上芳太、「那智」萱嶋浩一、「熊野」左近允尚敏、最上:曾禰章、「五十鈴、摩耶」井上団平
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